日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『かんばんのないコーヒーや』 かめおかあきこ

(月刊「こどもの本」2024年7月号より)
かめおかあきこさん

人生を変えたコーヒー

「コーヒーは、珈琲豆をやいて粉にしてお湯をかけるだけ。それだけなのに難しい。まだまだ勉強中ですよ」

 そう語るのは、この絵本のオオカミくんのモデルとなった、日本のどこかに実際にあるコーヒー屋のマスター。豆に愛情を持って一杯一杯丁寧に淹れたその味は、マスターが五十数年コーヒーに向き合ってきたことの証明であるかのように、飲む人のコーヒーの概念を変えてしまいます。

 今から五十数年前、珈琲豆を焙煎する香りに誘われて入った看板のないコーヒー屋で、マスターは運命を変えるコーヒーと師匠(絵本の中のくまマスター)に出会いました。この味を出したい! ただそれだけでコーヒーを作り続けてきた人生は、聞けば聞くほどドラマチックで、「絵本にしたい」とマスターに直談判したのが始まりです。

 絵本では、子どもたちにも楽しんでもらえるようにコーヒーをどんぐりコーヒーに、登場人物を動物に変えていますが、ストーリーはほぼ実話です。くまマスターのどんぐりコーヒーに魅せられたオオカミくんでしたが、くまマスターに弟子入りを願い出るも断られてしまいます。悔しい思いをしながらも、くまマスターの「じぶんでかんがえろ」の言葉に悪戦苦闘しながらも、どんぐりコーヒー作りに没頭していきます。

 オオカミくんの生き方は、いかにタイパ(タイムパフォーマンス)良く満足な成果をあげるか、無駄を省いて結果を出すかという現代に見られる考え方に対し、時間をかけて取り組むプロセスの大切さを確認させてくれます。また、わからないことをすぐにネット検索してわかった気になってしまう現代の傾向に対し、自分で考えて失敗しながらもやってみて学ぶことこそ血となり肉となることを教えてくれます。

 美味しいコーヒーが飲みたかった、そこから始まったシンプルだけど味わい深いオオカミくんの物語を、コマ割り絵本で表現しました。楽しんでいただけたら幸いです。

●既刊に『とうみんホテル グッスリドーゾ』『さいこうのスパイス』『はるをさがしに』など。

『かんばんのないコーヒーや』"
ほるぷ出版
『かんばんのないコーヒーや』
かめおかあきこ・作
定価1,760円(税込)