
ムシにいつも助けられて
東日本大震災のあと、しばらくして東北地方のある町に入った。復興に向けて動きだしたばかりで、大津波の残した爪痕があちこちに残っていた。
そこで出会った80代の人から聞いた言葉が、脳裏から離れない。
「生きてりゃ、なんとかなる。家を失ったのは、これで3回目だからな。なあに、またやり直せるさ」
東北人のたくましさには以前から一目置いてきたが、自分がそうなったら、とても口にできそうにない。苦境にあってなお平然と言い切る強さには、ほんとうに頭が下がる。
東北の中でもとくに苦しかったのが福島県だろう。大津波だけでなく、放射性物質にまで生活をこわされた。しかも根拠のない風評となって、全国へ、世界へと広がったのだ。食べ物や農業に関する作品をいくつか書いてきたのに、何もできないもどかしさを抱えたまま毎日を過ごしていた。
そんなある日、友人である本作の主人公の一人から連絡があった。田んぼの生き物調査をしたところ、意外な結果が出たというのだ。
「被災した田んぼで稲作を再開したら、珍しい虫が見つかったんです。絶滅が心配される虫もいました!」
彼はその調査データが、風評を払しょくする材料になると直感した。わたしも同感だった。震災後の生き物調査の始まりがゲンゴロウだったこと、ゲンゴロウは田んぼとも縁の深い虫であることから、ゲンゴロウを通じて、震災や原発事故のその後を子どもたちに伝えられるのではないか、風評被害について考えるきっかけになるのではないか、そんなふうに思った。
のちに「平成の大冷害」と呼ばれるようになった1993年の米不足当時の作品では、「田んぼの草とり虫」カブトエビに助けてもらった。こんどはゲンゴロウの出番である。
編集者と相談し、書名には「田んぼの応援団」と加えた。福島の人たちの思いをどこまで届けられたのかわからないが、物言わぬ応援団に最も助けられたのはわたし自身だと思っている。
(たにもと・ゆうじ)●既刊に『虫かご・水そう・プランターなしでかんたん! ペットボトルで育てよう』(全3巻)など。
汐文社
『ぼくらは田んぼ応援団!福島ゲンゴロウ物語』
谷本雄治・著
定価1,760円(税込)