日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『アフリカで、バッグの会社はじめました』 江口絵理

(月刊「こどもの本」2023年12月号より)
江口絵理さん

物語の力をもつノンフィクション

『高崎山のベンツ』を始め、私の著書の大半は動物の本です。それぞれに個性豊かな動物の生きざまを本という形にして、その魅力を読み手と共有することが楽しくてたまらないのです。

 ところが本書の主役は人間の女性。「江口さんって、人間の本も書くんですね?」と問われ、私にとっては、「個性あふれる生きざま」が好物なのであって、それが動物か人間かは関係ないのだと気づきました。

 本書の主人公、仲本千津さんは、医者になる夢に破れ、緒方貞子さんに憧れて大学院に入ったものの、国連で働く夢も断念。アフリカの貧困解決のために働くと決めていたのに、何を思ったか日本のメガバンクに就職するという宙返りのような寄り道を重ね、ついにはウガンダで起業。社会起業家として歩み出します。

 本書を書きながら私がイメージしていた読み手は、将来を考え始める年頃の中学生・高校生でした。彼ら彼女らが「将来は、社会を良くする方向に力を注ぎたいな」とふと思ったときに、どんな仕事がありえ、どんな生き方になるのかを知る機会は多くない。ならば、ただ知識を得るだけでなく、心が動かされる本との出会いで将来を考えるきっかけをつくれないだろうか?

 実在の人であっても、人の生きざまはある種の物語です。人の心を動かす「物語の力」は、フィクションでもノンフィクションでも変わらずあると信じ、冒険物語のように読める「寄り道人生ドキュメンタリー」としてこの本を書こうと考えました。

 リアルな物語を紡ぐため、昨年にはウガンダに出かけました。仲本さんから聞いた話をリライトするのではなく、現地の温度や光、音、働く女性たちの切実な願いや日々の幸せ、仲本さんとの信頼感を自分の体で感じ取ってそれを文字に置き換えたかったのです。

 できあがった本書は、笑いあり涙あり山あり谷ありの仲本さんの道のりを、読み手が一緒に歩めるような本になっているだろうか。ドキドキしながら読者の反応を待つ毎日を送っています。

(えぐち・えり)●既刊に『ゆらゆらチンアナゴ』『アマミホシゾラフグ』『ボノボ』など。

『アフリカで、バッグの会社はじめました』"
さ・え・ら書房
『アフリカで、バッグの会社はじめました』
江口絵理・著
定価1,650円(税込)