日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ゆうやけにとけていく』 ザ・キャビンカンパニー

(月刊「こどもの本」2023年11月号より)
ザ・キャビンカンパニーさん

『ゆうやけにとけていく』ができるまで

『ゆうやけにとけていく』の原案を考え始めたのは、全国的に新型コロナ感染症が広まり始めた2020年の初頭。人間達がオロオロ動揺している中、外の世界は、新芽がうるうると立ち上がる美しい春でした。鬱屈とした毎日でしたが、窓から外に目をやると、雲は自由に流れ、空は異常なほど鮮やかに輝いて見えました。

 心をどこに持っていけば良いのかわからない、そんな時期に、幼なじみの友人が脳の病気で亡くなりました。コロナ禍で病室には中々入れず、パソコンの画面越しに声をかける日々。最後まで諦めず前を向き、懸命に頑張ったのですが、友人は逝ってしまいました。友人を見舞う中で、何度かこれまで描いた自身の絵本を贈ろうとしたのですが、何を選べば良いかわからず、結局最後まで贈ることができませんでした。悲しみと不安の中にいる人に、そっと寄り添い、励まし慰めてくれるような絵本を作りたいと、その時、切に想いました。このような時期、経験から、描きたいテーマが膨れ上がるように、頭から筆を握る手に伝わっていきました。そうしてできた絵本が『ゆうやけにとけていく』です。夕焼けの時間は、一日のようで、一年のようで、はたまた人の一生のようで。この夢幻的な時間ならば、誰にでも等しく光が届くような気がして、本作のモチーフとしました。夕焼けは、どこか哀しさを帯びているけれど、実は、一日の中で最も美しく優しい時間だと私達は思います。夕焼けをテーマにした詩も、たくさんあります。朝や夜を書いている詩よりも、夕焼けの時間の詩が私達の心に強く残っていました。

 金子みすゞさんの詩「石ころ」や、吉野弘さんの「夕焼け」、堀口大學さんの「夕ぐれの時はよい時」にはとても影響を受けています。この絵本『ゆうやけにとけていく』も、絵や言葉から、いろんな感情が想起される、夕暮れ時の詩のような絵本になっているといいなと思っています。一日の喜びも悲しみも全てが、夕日にとろとろと溶けて浄化され、明日の生きる力となりますように。

●既刊に『がっこうにまにあわない』『きのこのこ』(得田之久/文)、『あかんぼっかん』など。

『ゆうやけにとけていく』"
小学館
『ゆうやけにとけていく』
ザ・キャビンカンパニー・作
定価1,870円(税込)