日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『じゅげむの夏』 最上一平

(月刊「こどもの本」2023年8月号より)
最上一平さん

四年生の夏の光

 二十年ほど前のことになるだろうか。団地の同じ棟に明俊という子がいた。小学四年か五年生ぐらいではなかったろうか。

 明俊君はひっくり返るのではないかと思えるほど、体をそらして歩いていた。一歩ずつ、一歩ずつ。そのころは、すでに足に補助具をつけていたようである。私の子どもといっしょの小学校に通っていたが、いつも明俊君に誰かかれかがついていて、学校帰りには明俊君のランドセルを持っていた。近所の友だちが率先して手伝っていたのかもしれない。それともクラスでお手伝い係のようなものを決めていたものか。明俊君のまわりでは、明俊君のペースにあわせて、ワイワイやりながら下校していた。

 明俊君は筋ジストロフィーだった。筋ジスの子は長くは生きられないという。だんだんと進行していく病気だ。

 明俊君のお父さんは、将来明俊君が歩けなくなった時のために、体を鍛えていると聞いたことがあるし、よく走っている姿を目にした。

 さて、『じゅげむの夏』であるが、四年生の四人がひと夏をすごす話である。舞台は山の中の集落。ひとつの集落に、同級生が四人もいるというのは珍しい山間の地である(同級生は全員で九人)。だから、小さい時からこの四人はいっしょに遊び、いっしょに育ってきた。

 その中のひとり、かっちゃんという子が筋ジスの子だった。かっちゃんの自室が、四人のたまり場になっている。夏休みの初めに「四年生の夏は冒険でしょう」ということにまとまる。

 四人の少年たちが夏の日射しを受け、キラキラと輝く。そんな世界を書いてみたかった。いっしょに育ってきた三人は、かっちゃんの病気の進行を肌で感じていることだろう。でも、少年たちは、四年生の夏をつかむ。そして、これから先、なにが待ち受けていようとも、四年生の夏の光は、彼らにはげましを贈るだろう。

 絵はマメイケダさん。少年たちの躍動をユーモアを持って描いてくださった。楽しい。

(もがみ・いっぺい)●既刊に『ユッキーとともに』『あらわれしもの』『いのちが かえっていくところ』など。

『じゅげむの夏』
佼成出版社
『じゅげむの夏』
最上一平・作/マメイケダ・絵
定価1,650円(税込)