
四年生の夏の光
二十年ほど前のことになるだろうか。団地の同じ棟に明俊という子がいた。小学四年か五年生ぐらいではなかったろうか。
明俊君はひっくり返るのではないかと思えるほど、体をそらして歩いていた。一歩ずつ、一歩ずつ。そのころは、すでに足に補助具をつけていたようである。私の子どもといっしょの小学校に通っていたが、いつも明俊君に誰かかれかがついていて、学校帰りには明俊君のランドセルを持っていた。近所の友だちが率先して手伝っていたのかもしれない。それともクラスでお手伝い係のようなものを決めていたものか。明俊君のまわりでは、明俊君のペースにあわせて、ワイワイやりながら下校していた。
明俊君は筋ジストロフィーだった。筋ジスの子は長くは生きられないという。だんだんと進行していく病気だ。
明俊君のお父さんは、将来明俊君が歩けなくなった時のために、体を鍛えていると聞いたことがあるし、よく走っている姿を目にした。
さて、『じゅげむの夏』であるが、四年生の四人がひと夏をすごす話である。舞台は山の中の集落。ひとつの集落に、同級生が四人もいるというのは珍しい山間の地である(同級生は全員で九人)。だから、小さい時からこの四人はいっしょに遊び、いっしょに育ってきた。
その中のひとり、かっちゃんという子が筋ジスの子だった。かっちゃんの自室が、四人のたまり場になっている。夏休みの初めに「四年生の夏は冒険でしょう」ということにまとまる。
四人の少年たちが夏の日射しを受け、キラキラと輝く。そんな世界を書いてみたかった。いっしょに育ってきた三人は、かっちゃんの病気の進行を肌で感じていることだろう。でも、少年たちは、四年生の夏をつかむ。そして、これから先、なにが待ち受けていようとも、四年生の夏の光は、彼らにはげましを贈るだろう。
絵はマメイケダさん。少年たちの躍動をユーモアを持って描いてくださった。楽しい。
(もがみ・いっぺい)●既刊に『ユッキーとともに』『あらわれしもの』『いのちが かえっていくところ』など。
佼成出版社
『じゅげむの夏』
最上一平・作/マメイケダ・絵
定価1,650円(税込)