日本児童図書出版協会

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こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ29
「野ばらの村の物語」シリーズ 出版ワークス

(月刊「こどもの本」2022年1月号より)
「野ばらの村の物語」シリーズ

野ばらの村に帰る子どもたちへ

ジル・バークレム さく・え/こみやゆう やく
2021年5月〜刊行

 野ばらの村は小川にそって続く野ばらの茂みの中にあります。そこでは、ねずみたちが木の幹をくり抜いた家に住み、それぞれの仕事をしながら助け合って生活しています……。

 この春、世界中から愛された「野ばらの村」シリーズが弊社から復刊されました。かつて講談社から発刊されていたこのロングセラー絵本の復活に、喜びと応援の声を多く頂いております。私がこのシリーズに出会ったのは大人になってからのことですが、『野ばらの村のピクニック』を手にした時の驚きは忘れられません。まず書籍冒頭にある「作者のことば」に強く惹かれました。

〜ねずみたちの衣服……道具などは、まわりにある素材から……粉ひき小屋、織り機なども、水力や手動でちゃんと機能することにもこだわりました。そのため、長さは、人間の単位ではなく、ねずみのしっぽや足で単位を作り、重さは、ドングリや小麦の粒で、時間は、日時計やロウソク時計ではかるようにしました〜(『野ばらの村のピクニック』ジル・バークレム 作者のことばより)

 なんと強い意志でしょう。現実の一角に物語の世界を確立しようとする執着すら感じます。本文に入ると、あっという間にディテールの細かい絵に目を奪われました。木の断面で見る間取りは皆で作業がしやすいようにキッチンや倉庫に直接通じており、チーズ小屋はすべてのからくりが水車とつながるように設計されています。素朴なねずみたちの生活をつぶさに観察することはとても楽しく、背景に描かれた実物大のキノコや野リンゴを眺めることで、ねずみたちのリアルな寸法を実感することができます。ねずみたちの食事も、実際に食べることができるものばかり。どんぐりコーヒーやブラックベリーは、子供ならばきっと親にねだったことでしょう。エレガントと素朴さを併せ持った旬のごちそうは、今でも充分魅力的に感じます。そして物語から感じる豊かさと深い安らぎは、類のないものです。私も子供の頃に、野ばらの村に出会いたかった……読者の方への羨望の念は、この一言につきると思います。幼い頃この物語にふれた人の心の中では、野ばらの村のねずみたちが今も息づき、変わらぬ生活を続けています。大人になりこの世界に再び出会った読者は、子供の頃と変わらず温かく幸せな世界に、再び迎え入れてもらっているのではないでしょうか。

 野ばらの村。そこは子どもたちだけの世界ではなく、いくつもの季節を迎え、大人になった子どもたちも帰ることのできる、永遠のふるさとなのかもしれません。

(出版ワークス 池谷都々美)