
線路を守る仲間たち
黄色い車体で颯爽と走りながら線路をなおす、特別な車両。私がドクターイエローに対して最初に抱いていたイメージはこういうものでした。また、「いつ走っているかわからない」「乗客は乗れない」「最新の機械を積んで、営業車両と同じ速度で走る」「見ることができたらラッキー」といった特徴もミステリアスで、わくわくします。これだけ個性があれば、のりもの絵本の主人公として大活躍できそうです。
それでは、肝心の物語はどうするか。「ドクター」というからには、大変なことが起きても慌てたりせず、いつも沈着冷静な性格のはず。自慢の精密機械でなんでも解決してしまって、周りの仲間は大助かり……とまあ、これではあまりおもしろくありません。ならば、もしもドクターイエローがおっちょこちょいだったら? 故障を見落として大変なことになり、それを挽回するため必死でがんばるドクターイエロー……。これはもうなんでもありになってきます。ドクターイエローだからこそ描けるおはなしってなんでしょう?
資料を見直していくと、どうもドクターイエローは派手な活躍をする車両ではないということがわかってきました。調べる中で目に留まったのが、本作でもたくさん登場する「保線車両」たち。保線車両とは、線路の安全を維持していくための作業を担う車両のこと。レールを交換したり、削ったり、バラストを入れ替えたり、架線を張り替えたり。真夜中の線路のうえでは、本当にたくさんの保線車両たちが働いているのです。ドクターイエローは、その名のとおり線路の具合を診察するお医者さん。決してヒーローではありません。保線車両のみんなと力を合わせて、線路や架線の安全を保っていたのです。そこでようやく、私が作りたいのは、線路を守る仲間たちのおはなしだということに気がつきました。
時速300キロで走るかっこいい新幹線。その裏では、たくさんの人々や車両が安全を守っています。そんな世界を少しだけのぞいてもらえたら嬉しいです。
(かまた・あゆみ)●既刊に『ちかてつのぎんちゃん』『ヘリコプターのぷるたくん』『巨大空港』など。
小学館
『せんろをまもる! ドクターイエロー』
鎌田 歩・さく
定価1,430円(税込)