
自然が育む希望の文学
四月に出版した『青空モーオー!』の舞台は、岩手県の酪農家の牧場です。
私は、和牛を飼う農家です。とはいえ、乳牛は専門外なので、酪農家に取材に通いました。そこで感じた、酪農家の牛への献身と愛情に、同じ牛飼いとして胸が熱くなりました。
牛への愛情は、ペットへの愛情とはちょっと違います。心をこめて世話をするのはもちろんですが、農家には、「家畜としての役割を全うしてもらう。そのために、全力を尽くす」という愛情もあるのです。
牛は一頭一頭、体の模様や角の形、性格も様々です。群れの生き物としての社会性も持っていて、意地悪な牛は後でしっぺ返しを受けますし、優しい牛はみんなに大事にされます。私も、日々、牛たちから、大切なことに気づかされています。
この本を書く時、そんな農家の思いや、酪農の現場の様子が、少しでも伝わってほしいと思いました。また、友達関係で悩みを抱えがちな読者が、一歩引いたところから自分を見つめるきっかけになればと思いながら、筆を進めていきました。
本書には、牧場の様子だけでなく、岩手の自然もたっぷりと描写しました。自然の美しさと豊かさ、そして無情なまでの厳しさは、私たちの心を鍛え、生きる力を与えてくれます。一方、都会に住む人の多くが、農業の現場や自然に触れる機会からどんどん遠ざかっていることが、とても残念でした。さらに、コロナ禍で、子どもたちが不安とストレスでいっぱいなのではと、気がかりでした。
リアルでは制限の多い生活でも、ひとたび本を手に取れば、物語の中で自由に旅し、心を解き放つことができるはず。挿絵のpon-marshさんのお力で、とても爽やかな本になりました。牛たちの息遣いと草原の風が、読者の心に届きますように!
これからも、子どもたちの前には、様々な困難が立ちふさがることでしょう。そんな時こそ、児童文学が希望の光であってほしいと願っています。
(ほりごめ・かおる)●既刊に『うみべの文庫』『ゆうなとスティービー』『はくさいぼうやとねずみくん』など。
学研プラス
『青空モーオー!』
堀米 薫・作/pon-marsh・絵
定価1,430円(税込)