
多様性への感受性を育てる赤ちゃん絵本
しもかわらゆみ 作
2020年3月刊行
『おんなじ だあれ?』が発売された時期は、第一回目の緊急事態宣言のさなかでした。書店のみなさまは本当に大変な状況だったと思いますが、おかげで版を重ねることができ、多くの支持を得られたことに心から感謝しています。企画のきっかけは、2歳児クラスで保育士体験をした時に、園児が「おんなじ、おんなじ」と言いながらいろんなものを見せてくれたことです。
「おなじ」ものを見つけるのが、この年代の子どもは特に好きなのでしょう。絵本でこのテーマを扱っている例は少なかったので、ぜひ形にしたいと思ったのでした。
なにより、「おなじ」と「ちがう」を感じはじめた敏感な時期に、多様性への感受性を育てるような絵本ができたらと思ったのです。いまの時代に必要な感覚と考えていらっしゃる親御さんもすくなくないでしょう。
ちがう動物たちなのに、体の一部がおなじように見える……そんな絵本はできませんかと、しもかわらゆみさんにお声がけしました。親しみやすい可愛さや擬人化と、「おなじ」に見えるリアリティが必要と思ったからですが、私の想像をはるかに超えて、しもかわらさんの手によって描かれた動物たちは、仲良さそうな表情が本当に優しく、すばらしいメッセージをたくしていただけたと思います。
打ち合わせのなかで、穴あき絵本にすることが決まり、せっかく穴を開けるのだからと、いろいろ凝った使い方を相談したのですが、しもかわらさんは、シンプルにいきましょうと強くおっしゃいました。「おなじと思っていたのにちがう。子どもがもつその驚きに集中させてあげることが、本書のかなめです」と。今回が私にとってはじめての絵本づくりということもあり、お金を払う価値があるよう、情報量を増やし、お得な印象にしたほうがよいと思っていたのですが、しもかわらさんのひとことで、とても大切なことに気づけたように思います。ただ、穴の形や体の部位、色といった要素で、親御さんがお子さまに教えたいことをそっと盛り込んでいます。
しもかわらさんのシンプルですばらしいメッセージが、おおくの方に受け入れていただく力になったのだと思っています。
多様性へのメッセージが、赤ちゃんでも楽しめる絵本として形になったのは、なにより嬉しいことでした。
子どもたちがおおきくなっても、この本のことが心のどこかに残っていたらと、願っています。