
魔法をかける
私たちの絵本には毎回食べものが登場します。お店に取材に行ったり、資料になりそうなものを買ってきたり、自ら調理したりして絵本に登場する食べものを集めます。
今回の絵本は、昨年の緊急事態宣言まっただなかで描きあげました。なので登場する食べもの全部を自分たちで調理することにしました。でも、今回はそれでよかったなと思うのです。
「かける」という美味しくも美しい行為は、お料理の最後の仕上げです。高級なレストランなんかで、目の前でソースをとろろろんとかけてくれたりしますよね。あれってわくわくするし、目の前で出来上がったばかりのお料理を見て食べることができます。そうでなくても、運ばれてきた料理に自分で醤油をたらりと垂らしたら、そこで初めて、できたてほやほやのお料理が完成するのです。
「かける」は調理そのもので、自分が料理長となってそのお料理の味を決める最後の大事なお仕事なのです。油断してお醤油をかけすぎてしまったら「ああ、しょっぱいぞ! なんの、ご飯に乗っけて豆腐めしにしちゃえばいいのだ!」と新しいお料理も生まれるかもしれません。
かけるものでその料理の雰囲気も全然違ったものになります。目玉焼きには醤油派? ソース派? とあるように。ちなみに、私たちはマヨネーズ醤油派です。そういった点では「かける」という行為は実験でもあるかもしれませんね。
私たちも、実際に絵本に登場する食べものを作って、かけているところを何度も何度も観察して、できたばかりのお料理を食べて……というふうに試行錯誤を重ねて何度も「かける」という行為に向き合って制作を進めました。おかげで絵本の中でも、お料理はできたてほやほやの、生き生きとしたものになったなと思いました。
普段何気にやってる「かける」という行為は、美味しいものをもっと美味しくする魔法なのです。
(はらぺこめがね)●既刊に『にくのくに』『みんなのおすし』『あなあなはてな』など。
佼成出版社
『かける』
はらぺこめがね・作
本体1,300円