
目に見えない大切なもの
この絵本は、春になった森で、うさぎのミミナちゃんが花を摘みながら、友だちを起こしに行く場面から始まります。
いつまでも冬眠しているくまのフワくんや、とかげのスールちゃんたちの家に行くと、みんな気持ちよく眠っていて起きてくれません。そんな友だちにミミナちゃんは、「はるに なったよ いっしょに あそぼう。」と言って、森で摘んだ花束を置いてゆきます。しばらくすると友だちは花の匂いで目を覚まし、もう一ついい匂いがすることに気づいて……。
この物語を読んでまず感じたのは、春のおとずれの喜びと暖かさ。また、目には見えないけれど大切な「匂い」というテーマを、「友だちの匂い」という素敵な物語で表現されていることに感動しました。
私は今アラスカに滞在していて、いつも森を身近に感じることができます。この絵本に登場するフワくんのような大きなくまが、滞在している家の前を歩いていたこともありました。春の森を散策すると、草花がいっせいに芽吹き咲く姿は美しく、そんな生き生きとした森を描きたいと思いました。編集者さんと「ミツバツツジはこの時期はまだツボミかしら」などと相談しながら、植物や昆虫を描くのも楽しい作業でした。
ミミナちゃんが友だちの家を訪ねるシーンでは、動物たちはそれぞれ大きな木の家、小さな葉っぱの家などに住んでいて、次はどんな家かな?とワクワクしながら、ミミナちゃんと一緒に自分も訪ねて行くような気持ちで描きました。
この絵本の文章を書かれた片山令子先生は、残念ながら絵の制作途中に永眠されました。はたしてこの絵でよかったのかと心配になるときもありました。絵本の完成をお見せできず、申し訳ないような切ない気持ちにもなりました。でもきっと、この物語のような優しい温かさで、「大丈夫よ」とおっしゃってくださっているように感じています。
(あずみむし)●既刊に『つるかめ つるかめ』(中脇初枝/文)、『わたしのこねこ』(澤口たまみ/文)など。
学研プラス
『おねぼうさんは だあれ?』
いぶき彰吾・文
本体1,400円