
猫のロロくんに
捧げる絵本
一人娘が小学五年生だったころ、移動教室で行った群馬県川場村から、生後一ヶ月ほどの二匹のグレー猫を連れ帰って来た。この日以来、わが家の生活は猫を中心に回り続けることになった。日記にも、猫たちがしばしば登場する─。
○月○日 ミミとロロ(猫たちの名前)、ミャーミャー鳴いてばかり。ミミはお皿に足をつっこんで、牛乳を飲む。ロロはかぼちゃの黒糖煮をムシャムシャ食べる。
○月○日 夜明け前、床に撒き散らした煮干しを、バリバリ音を立てながらロロが貪っていた。私には気づかない振りをしつつ。
○月○日 今朝もロロが自分で網戸を開けて、家を出て行く。庭を見ると、ロロが得意げに草を食んでいた。緑の中のグレーの猫は、絵になるけれど。
─こんなふうに、頭がよくて冒険好きで、愛すべき猫・ロロが、今から九年ほど前、とつぜん病に倒れてしまう。そして、ある明け方、娘の腕の中で、静かに息を引き取ったのである。
ロロの不在をつよく意識するのは、ひとりで遊歩道を散歩するとき、電車の窓から外の景色をながめるとき、そして外から家に帰ってきたときだった。ロロが私の生活の一部だったんだ……と、痛切に感じてしまう。
この頃、ロロくんへの想いを、何気なく書き連ねたのが、「あ/あの/ねこは/これまで/ひそやかに/……」と一文字ずつ増えていく詩だった。
二年ほど前、ずっと寝かせたままになっていたこの詩のことを、ふと思い出し、そして閃いた。この極めてシンプルな詩に、もしも宇野亞喜良さんが絵をつけてくださったなら、素敵な絵本が出来上がるのではないか、と。
私の思いつきに賛同してくださったのが、フレーベル館の若き編集者Wさん。装丁を手がけた気鋭のデザイナー・大島依提亜さんが、宇野さんの描く、自由奔放かつ健気な猫と、愛らしい少女の魅力を、さらに高めてくださった。こうして、この上なく切なくて、美しい絵本が誕生したのでした。
(いしづ・ちひろ)●既刊に『あしたうちにねこがくるの』(ささめやゆき/絵)など、翻訳作品に『リサとガスパール』など。
フレーベル館
『あのねこは』
石津ちひろ・文
宇野亞喜良・絵
本体1,600円