日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『クラゲすいぞくかん』 村上龍男・しゃしん なかのひろみ・ぶん

(月刊「こどもの本」2015年10月号より)
なかのひろみさん

クラゲコネクション

「見学にきた子どもたちには、騒いでも、大声をだしても、走ってもいいぞという。子どもたちには思いっきり感動してほしいのだ。子どもが騒いでうるさいとクレームがくることもあるが、注意なんかしない。大人にはちょっとがまんしてくれと思っている」
 六年前、加茂水族館の村上龍男館長(当時)の講演をきいた。館長自身が負債を背負い、つぶれかけた水族館をたてなおして、人気のクラゲ水族館にした苦労話と水族館経営哲学は痛快で面白かったが、講演の中でいちばん私の心に残ったのはこの話。
 こんな館長のいる水族館が魅力的でないわけがない。だから、クラゲの本をつくりませんかという話がきたとき、
「クラゲ水族館? やったね〜」
と思ったのだった。
 しかしクラゲ絵本づくりは意外と難航した。試行錯誤の末、ヒトデやイソギンチャク、ウニの子どもたちがクラゲ館長といっしょに水槽をながめたり、水槽の中に入ったりしながら水族館を見学、クラゲの世界をベンキョーするという設定にたどりついた。
 予想外に手間がかかったのは、見返しのオリガミクラゲ。担当編集者、デザイナー、イラストレーター、私がそれぞれ折り紙を折りながら、メールで電話で対面で、あーでもないこうでもないといいながらつくったのだった。 じつは、私が海の生きもの好きになったきっかけはクラゲ。初めてつくったウエットスーツで潜った江ノ島の海中は、見渡すかぎりミズクラゲ。海底でカニを見つけては、ミズクラゲにのっけて遊んだのは遠い遠い昔のことだ。
 館長と担当編集者は、同じ高校の先輩後輩の関係。イラストレーターのひらのさんもクラゲ好き。デザイナーさんはクラゲの仕事中。不思議なクラゲコネクションで結ばれたスタッフ総がかりで完成したのがこの絵本だ。
 絵本ながら、六十六種のクラゲが登場。図鑑なみの種類数がさりげなく入っている。絵本で、クラゲの世界に足を踏み入れ、ぜひ本物のクラゲを見に水族館へ、海へでかけてほしい。

(なかのひろみ)●既刊に『う・ん・ち』『ぴっかぴかすいぞくかん』『へんないきものすいぞくかん ナゾの1日』など。

『クラゲすいぞくかん 〜クラゲかんちょーのクラゲじまん〜』
ほるぷ出版
『クラゲすいぞくかん 〜クラゲかんちょーのクラゲじまん〜』
村上龍男・しゃしん なかのひろみ・ぶん
本体1、300円