
風を感じて
私の住む群馬県では、ロードバイクに乗った人をよく見かけます。赤城山ヒルクライム、榛名山ヒルクライム、望郷ライン・センチュリーライド、ツール・ド・草津、等々……、大会も盛んに開催されています。
今回、自転車ロードレースを舞台にした小説を書きましたが、実際にロードバイクに乗ったことはありませんでした。
自転車には、通学や通勤で以前乗っていましたが、休みの日にわざわざ遠出をするために自転車を使うなんて考えられません。(だって、車があるのに?)
まして、ロードバイクで山を登るとか、サイクリングロードを通って群馬から東京ディズニーランドの駐車場まで行ってUターンして帰ってくるとかいう人たちの気持ちは少しも理解できませんでした。
それでも、自分が体験できないことや興味のないことについて、熱く楽しそうに語る人たちを見ているのが、この上なく好きなのです。身近にいる自転車乗りたちの言葉に耳を傾け、驚いたり感心したり呆れたりしながら、登場人物たちと一緒にロードバイクで山を登る物語を紡ぐのはとても楽しい作業でした。
実際にコースに赴き、風を感じながら新緑の森の中をかけ抜けて行く気分を満喫しましたし、「なぜ苦しい思いをしてまで多くの人々が山を登ろうとするのか」、主人公と答えを追い求めました。パーツの名称からパンク修理の仕方まで、ひとつひとつ丁寧に教えてくれた自転車の先生たちに、心から感謝します。
こうして出来上がった物語には、レースを通していくつかの親子のかたちが描かれています。不器用で、似すぎていて、近くにいるのが当たり前で、愛情が深すぎて、時々鬱陶しくもある親子の関係。
ロードバイクに乗る人も乗らない人も、親子でこの本を読んで、新緑の山を吹き抜ける風の中に何かを感じてもらえれば幸せです。
(かべ・りんこ)●既刊に『転校生は忍びのつかい』『サクラ・タイムトラベル』など。
岩崎書店
『風のヒルクライム ぼくらの自転車ロードレース』
加部鈴子・著
本体1,300円