日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯』 原田 勝

(月刊「こどもの本」2015年7月号より)
原田 勝さん

知識こそ力

  アメリカの子どもの本の書評誌で、原作の表紙を見た時、とにかく読んでみたい、と思った。黄色い地に赤い絵の具で描きなぐったような顔には、本から飛びだしてくるような迫力があったのだ。

 顔の主は、この「ドキュメンタリー・ノベル」の主人公、ルイス・ミショー。若いころは、さんざん悪いこともしたミショーさんだが、四十歳をすぎて一念発起、ニューヨークの黒人地区ハーレムに、黒人が書いた、黒人に関する本ばかりを扱う書店をひらいたのが、一九四〇年ごろのこと。

 ミショーさんは同じ黒人として、奴隷解放後も社会的に低い地位に甘んじているアメリカの黒人の現状を憂い、その原因は、黒人が自分たちの人種や民族の歴史に無知であるために、自らに誇りをもてないからだと考えたのだ。

 そして、本をならべて売るだけでなく、自ら読み、客に勧め、その中身について議論する場を提供し、また、とくに若い人たちに読書や知識の大切さを説いた。

 そんなミショーさんの人生を再現するにあたり、彼の弟の孫にあたる作者は、家族や知人、書店に出入りした学者や活動家、作家や詩人たちの証言に、作者が想像した人物たちの言葉を組み合わせ、さらに挿絵や写真をはさんでいくという、異色の、しかし、じつに効果的な手法を用いている。

 日本語版を作るにあたって、本の大きさや写真や挿絵、レイアウト、そして、この印象的な表紙も、ほぼそのまま移すことができたのは幸いだった。

 この本は、中高生から一般むけだが、とくに若い読者のみなさんには、知識が人間にとって、あるいは民族や人種にとって、どれほど大切なものであるか、そして、その知識は大学へ行かなくても、年をとっても身につけられること、本や書店は知識の宝庫であることを、ミショーさんの一生から感じとってほしい。

(はらだ・まさる)●既訳書にR・ウェストール『真夜中の電話』、M・グライツマン『フェリックスとゼルダ』など。

「ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯」
あすなろ書房
『ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯』
ヴォーンダ・ミショー・ネルソン・著
原田 勝・訳
本体1,800円