日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ラッコのひみつ』 松橋利光

(月刊「こどもの本」2015年5月号より)
松橋利光さん

困らせラッコを可愛く感じたのは?

 子どもの頃から生き物好きだった私は、大人になって水族館の飼育係になりました。そのとき初めて担当したのが二匹の「ラッコ」。

 ラッコは水槽の外から見ていると、貝を割る姿も愛嬌があって面白いし、仕草一つひとつがとても可愛らしく、おとなしい生き物なのかな? と思っていましたが……。いざ飼育担当になってみると、その認識はすぐに間違いだと気づかされました。気まぐれで好きな餌しか食べないし、神経質で少しのことでびっくりして近寄ってこなくなったり、今まで大好きだったはずの魚の切り身を小骨が気になって食べなくなったり。いたずらで餌のときに渡したオオアサリの貝殻をわきの袋に隠し持ち、私の目を盗んでは水槽をガリガリ傷つけたり、掃除をしているとデッキブラシを奪いにきたり、デッキブラシを渡すことを拒むと長靴に噛み付いてきたりと……とても飼育員泣かせな生き物で、新人飼育員だった頃は随分と困らされたのを思い出します。

 あれから二〇年以上が経ち、私は今カメラマンとして、子どもに向けて生き物の本を作る仕事をしていますが、飼育員として、またカメラマンとして、違った二つの角度から生き物に接してきた経験を生かして、飼育員さんと飼育動物の関係性やその仕事のことを、生き物好きなお子さんに伝えたいと思い作ったのが、この「どうぶつのひみつ」シリーズです。このシリーズで私は撮影を担当し、文章は池田菜津美さんが担当しました。二人でしつこい位に取材を重ね、その内容をたくさん本に詰め込みました。

 パンダ、ゾウ、ライオン、キリン、イルカと出版し、シリーズの最後はやはり思い出深い「ラッコ」。撮影の舞台は鳥羽水族館。鳥羽水族館では当時「ポテト」「ロイズ」「メイ」と言う名の三頭のラッコが暮らしていました。特別にその展示室に入らせてもらい、何日も直に接しながら、そのままの姿を撮影させてもらったのですが、飼育員時代に感じたあの厄介さはまったく無く……ただただ可愛く感じられたのは、立場が違うからでしょうか?

(まつはし・としみつ)●既刊に『生きもの つかまえたらどうする?』『虫と蟲とムシ』『にわのかいじゅうファイル』など。

『飼育員さんおしえて!ラッコのひみつ』
新日本出版社
『飼育員さんおしえて!ラッコのひみつ』
松橋利光・写真 
池田菜津美・文
鳥羽水族館・協力 
本体2,200円