日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『かまきりとしましまあおむし』 澤口たまみ

(月刊「こどもの本」2015年3月号より)
澤口たまみさん

同じ場所で、ともに生きること

 野原で虫に会うと、「やあ、元気だった?」なんて話しかけてしまいます。すると虫たちも、「今日は天気がよくて花の蜜がおいしいよ」などと答えてくれる気がします。それは私が、自問自答しているだけなのでしょうか。

 幼稚園や保育園の散歩に同行すると、子どもたちもごく当たり前に、虫や草に話しかけます。あるときは、小さなキノコが三つ並んでいるのを見て、三歳の男の子が目を丸くしました。「たいへんだ、絵本を読んであげなくちゃ!」理由を聞くと、「だって、小さな子どもだけでお留守番をしているから」。

 自然界のもの言わぬ生き物に心を寄せられるのは、幼い子どもが持つ優れた力だと思います。そして虫たちが、人の言葉で話しかけてくるように感じられるのは、ひどく非科学的なことのようでいて、じつのところ、心の真実を映しているのかも知れません。

『かまきりとしましまあおむし』を書くに当たって、私は、虫たちから感じられる心の声に耳を澄ましました。できれば実際に起こり得る出来事をテーマにして、読者の皆さんにも同じ場面を見てもらおうとも考えました。

 思いついたのは、食欲旺盛なキアゲハの幼虫が、しばしば食草を丸坊主にしてしまうことでした。食草のひとつであるニンジンの花には、蜜や花粉を求めて多くの虫が集まり、それを狙ってカマキリも訪れます。

 もっともキアゲハの幼虫はサナギになるとき、てんでに歩いて気に入った場所を探すため、たくさんのサナギが同じ場所に集まっているのは、ちょっと夢のような話です。

 それでも、ニンジンの葉や花をキアゲハの幼虫に分け与え、やがて得られる幸せは、きっと読者にも追体験してもらえるでしょう。

 がんばれ、がんばれ、チョウになれ。明日も生きて、ここで会おう。

 食う、食われるという関係にあるカマキリとキアゲハですが、敵とエサである前に、同じ場所でともに生きる仲間であり、そこには何らかの共感があるに違いないと、思われてなりません。

(さわぐち・たまみ)●既刊に『いもむしってね…』『わたしのあかちゃん』『みつけたよ さわったよ にわのむし』など。

「かまきりとしましまあおむし」
農文協
『かまきりとしましまあおむし』
澤口たまみ・文
降矢なな・絵
本体1,300円