同じ場所で、ともに生きること
野原で虫に会うと、「やあ、元気だった?」なんて話しかけてしまいます。すると虫たちも、「今日は天気がよくて花の蜜がおいしいよ」などと答えてくれる気がします。それは私が、自問自答しているだけなのでしょうか。
幼稚園や保育園の散歩に同行すると、子どもたちもごく当たり前に、虫や草に話しかけます。あるときは、小さなキノコが三つ並んでいるのを見て、三歳の男の子が目を丸くしました。「たいへんだ、絵本を読んであげなくちゃ!」理由を聞くと、「だって、小さな子どもだけでお留守番をしているから」。
自然界のもの言わぬ生き物に心を寄せられるのは、幼い子どもが持つ優れた力だと思います。そして虫たちが、人の言葉で話しかけてくるように感じられるのは、ひどく非科学的なことのようでいて、じつのところ、心の真実を映しているのかも知れません。
『かまきりとしましまあおむし』を書くに当たって、私は、虫たちから感じられる心の声に耳を澄ましました。できれば実際に起こり得る出来事をテーマにして、読者の皆さんにも同じ場面を見てもらおうとも考えました。
思いついたのは、食欲旺盛なキアゲハの幼虫が、しばしば食草を丸坊主にしてしまうことでした。食草のひとつであるニンジンの花には、蜜や花粉を求めて多くの虫が集まり、それを狙ってカマキリも訪れます。
もっともキアゲハの幼虫はサナギになるとき、てんでに歩いて気に入った場所を探すため、たくさんのサナギが同じ場所に集まっているのは、ちょっと夢のような話です。
それでも、ニンジンの葉や花をキアゲハの幼虫に分け与え、やがて得られる幸せは、きっと読者にも追体験してもらえるでしょう。
がんばれ、がんばれ、チョウになれ。明日も生きて、ここで会おう。
食う、食われるという関係にあるカマキリとキアゲハですが、敵とエサである前に、同じ場所でともに生きる仲間であり、そこには何らかの共感があるに違いないと、思われてなりません。
(さわぐち・たまみ)●既刊に『いもむしってね…』『わたしのあかちゃん』『みつけたよ さわったよ にわのむし』など。
農文協
『かまきりとしましまあおむし』
澤口たまみ・文
降矢なな・絵
本体1,300円