日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『サルくんとバナナのゆうえんち』 谷口智則

(月刊「こどもの本」2015年3月号より)
谷口智則さん

分け合う喜び

「一冊の絵本を作るのにどのぐらいの時間がかかるのですか?」と聞かれることがあるが、それは一言ではなかなか言えない。一週間でできる場合もあるし、何年もかかってもできない場合もある。

 この絵本の場合、六年前からずっと構想はあって、今回ようやく一冊の絵本にできた。

 様々なものが豊かになる現代。派手なアトラクションがあるアミューズメントパークや、ゲーム、SNSなど。いろいろと便利にはなり、人とのつながりも広がったように感じる。だけど本当の意味での人との関わりは希薄になったように思う。

 ひとりぼっちのサルくんが迷い込んだ〝バナナのゆうえんち〟。そこでは、サルくんの大事なバナナ一本と引き換えに、一つの乗り物に乗れる。そして乗り物に乗る度にサルくんのバナナはまるでゲームのアイコンのように一本ずつ少なくなっていく。そこで行われるのは動物たちとの義務的な会話のみ。

 だけど、そんな所にいてもサルくんは一人ではちっとも楽しくなかった。

 そんな時、サルくんが出会ったのは一人のウサギさん。ウサギさんも自分と同じでなんだか寂しそうだった。

 二人は助け合って、バナナのゆうえんちを抜け出した。そして、残った最後の一本のバナナを二人で半分こするのである。

 楽しい遊園地なんかなくても、二人でただただ一緒にいることの幸せ。日常の中にもたくさん喜びや感動があることを伝えたくて、この絵本を作った。

 喜びや感動は二人で分け合っても、バナナのように半分にはならない。むしろ、分け合うことによって、何倍にもなるものだと思う。絵本は子供や大切な人とコミュニケーションを取って普段の生活の中で感動を分け合えるものだと思う。子供に読み聞かせをしたり、大切な人への贈り物にしたり…。 是非、この絵本の感動を、お子さんや大切な人と分け合って欲しい。その感動は分け合っても決して半分にはならないものだから。

(たにぐち・とものり)●既刊に『100にんのサンタクロース』『せかいいちながいゾウさんのおはな』など。

「サルくんとバナナのゆうえんち」
文溪堂
『サルくんとバナナのゆうえんち』
谷口智則・作・絵
本体1,500円