
分け合う喜び
「一冊の絵本を作るのにどのぐらいの時間がかかるのですか?」と聞かれることがあるが、それは一言ではなかなか言えない。一週間でできる場合もあるし、何年もかかってもできない場合もある。
この絵本の場合、六年前からずっと構想はあって、今回ようやく一冊の絵本にできた。
様々なものが豊かになる現代。派手なアトラクションがあるアミューズメントパークや、ゲーム、SNSなど。いろいろと便利にはなり、人とのつながりも広がったように感じる。だけど本当の意味での人との関わりは希薄になったように思う。
ひとりぼっちのサルくんが迷い込んだ〝バナナのゆうえんち〟。そこでは、サルくんの大事なバナナ一本と引き換えに、一つの乗り物に乗れる。そして乗り物に乗る度にサルくんのバナナはまるでゲームのアイコンのように一本ずつ少なくなっていく。そこで行われるのは動物たちとの義務的な会話のみ。
だけど、そんな所にいてもサルくんは一人ではちっとも楽しくなかった。
そんな時、サルくんが出会ったのは一人のウサギさん。ウサギさんも自分と同じでなんだか寂しそうだった。
二人は助け合って、バナナのゆうえんちを抜け出した。そして、残った最後の一本のバナナを二人で半分こするのである。
楽しい遊園地なんかなくても、二人でただただ一緒にいることの幸せ。日常の中にもたくさん喜びや感動があることを伝えたくて、この絵本を作った。
喜びや感動は二人で分け合っても、バナナのように半分にはならない。むしろ、分け合うことによって、何倍にもなるものだと思う。絵本は子供や大切な人とコミュニケーションを取って普段の生活の中で感動を分け合えるものだと思う。子供に読み聞かせをしたり、大切な人への贈り物にしたり…。 是非、この絵本の感動を、お子さんや大切な人と分け合って欲しい。その感動は分け合っても決して半分にはならないものだから。
(たにぐち・とものり)●既刊に『100にんのサンタクロース』『せかいいちながいゾウさんのおはな』など。
文溪堂
『サルくんとバナナのゆうえんち』
谷口智則・作・絵
本体1,500円