
カカシのハナシ
「宮下さんが、不登校の話を書くなんて、めずらしいね」
この本を読んでくださった方数人に同じようなことを言われました。
ですが、私は不登校の話を書きたくて、この物語を書いたのではありません。私が書きたかったのは、カカシのハナシ、なのです。
初めて、頭がマネキンのカカシを見かけた時、私はしげしげとそのブキミな顔をながめて、考えました。
このマネキンカカシたちと話ができるのはどんな子かな?
多分、友だちがたくさんいる子ではないだろうな。
昼間は人目があるから、カカシたちだって、きっとしゃべらないはず。
それなら、真夜中に外へ歩き出す子って、いったいどんな子だろう?
そうして、私の頭の中に、居心地が悪そうな顔をした聡太くんの姿が浮かんだのです。
主人公の聡太くんは、とても頭のいい子です。
そのせいで、まわりの空気を読みすぎて、なかなか自分の居場所を見つけることができません。
学校の外に、居場所を探そうとしますが、立ちはだかる現実を前に、身動きが取れなくなってしまうのです。
今、学校に行けない子どもはクラスに一人はいるといわれています。
学校に行かなくても、今の時代、いくらでも選択肢はあります。
でも、学校で得るはずだった経験をしないまま、大人になってしまうのはあまりにももったいない。
だから、ちょっとだけ勇気をだせば学校に行けそうな子には、ぜひ一歩を踏み出してほしいなあと思うのです。
頭の中ではちゃんとわかっているのに、誰の言葉も耳に入らなくなってしまう時が、誰にだってあるはず。
そんな時、陽気なカカシたちのいいかげんなおしゃべりが、誰かの勇気につながればいいな。
やっぱりこれは、カカシのハナシ、なのです。
(みやした・えま)●既刊に『ジジ きみと歩いた』『ロストガールズ』『あの日、ブルームーンに。』など。
学研マーケティング
『真夜中のカカシデイズ』
宮下恵茉・作 ヒロミチイト・絵
本体1,200円