淡路島で生まれた絵本
四十年住みなれた京都から、淡路島へ越してきた。島で知り合った元校長の小南廣之先生は、障がい児が、普通学級で学ぶ教育を進めてきた人だ。先生は、町で働いている障がいのある教え子たちのことを、愛情をこめて、ユーモラスに話される。知的障がいのある自閉症の「かあくん」(治井一馬さん)がメール便の配達をしている話は、とくに面白く感動的だった。
海と段々畑の美しい風景をバックに、彼らの仕事ぶりを絵本にしたいと思い、先生に話すと喜んでくれた。
「ひまわり作業所」の仲間たちに会うため、島の反対側の東浦へと出かけることが多くなった。愉快な仲間たちの懸命な仕事ぶりも何度か見学したし、一緒に昼の給食をごちそうになったり、小旅行にまで同行させてもらった。そして次の年の花見は寺の本堂で盛大に催された。みんなの人気者かあくんは、大好きな英語の歌をお父さんのギターで唄った。花見に集まった人たちは、僕が、かあくんを主人公に絵本をつくっていることを知っていた。しかし、絵本はまったく進んでいない。
思い悩んでいたとき、かあくんの小学一・二年生のときの担任だった上田弘子先生に、かあくんのお母さんと二年間毎日やりとりした交換日記を貸してもらった。他人に関心を持たず、言葉の通じないかあくんを、経験がない上田先生が支える涙の記録だ。自閉症を知るために、たくさんの本も読んだ。中でも、『ありのままの子育て』(明石洋子/著、ぶどう社)の三部作は、自閉症と共に生きる親子を感動的に描いていて、絵本のとっかかりをつくってくれた。しかし、まだまだ。絵本で訴える骨のようなものがみつからない。
その年の冬、かあくんと保育園から中学時代までずっと同級生だった小田陽介くんが、ぼくを訪ねてきてくれた。
「子どものころ、かあくんが自閉症だと知らなかった。ちょっと変わっていたが、みんな普通につきあってきたよ」
彼と出会って、絵本には、みんなが一緒に育つ大切さをこめようと思った。『ふしぎなともだち』は、完成へと動き出した。
(たじま・ゆきひこ)●既刊に『しちどぎつね』『じごくのそうべえ』『祇園祭』など。
くもん出版
『ふしぎなともだち』
たじまゆきひこ・作
本体1,500円