
虫が苦手な人も、ぜひ読んでもらいたい
この「スイッチ!」シリーズを初めて手に取ったとき、まず、虫のラインナップがあまりに斬新でおどろきました。
ごくふつうの発想であれば、カブトムシ、クワガタ、トンボ、チョウなど、人気があり、好感度も高くて、一般受けしそうな種類を並べそうです。
しかし、作者スパークスが選んだのは、クモ、ハエ、バッタ、アリ、ガガンボ、ゲンゴロウなのです。
そして、記念すべきシリーズの第一巻、第二巻、クモとハエ!
クモはいくら益虫とはいえ、見た目のグロテスクさから忌み嫌われがちですし、ハエといえば、ゴキブリと並んで嫌われ虫の代表格です。(じつをいうと、作者はゴキブリも入れたかったのではないかと推測しています。それはさすがに、反対されそう……。)
正直なところ、わたしは全般的に虫が苦手です。おそらく、虫と接したときの反応は、主人公のひとり、虫嫌いのダニーと同じでしょう。
ですが、この本を読んで、クモやハエに対する見方が変わりました。
なんて見事な身体能力! すごい! うらやましい! かっこいい!
ここで初めて、作者がクモとハエをトップバッターに選んだ理由が見えてきました。
人間の勝手な都合で嫌われる生きものにも、すばらしい能力・資質があり、同じ「命あるもの」として等しく重く、大切なのだと訴えたいのでしょう。
表面的にはコミカルで軽めの雰囲気を保ちつつ、なんとも志の高い作品ではありませんか!
また作者は、虫だけでなく、害獣扱いを受けることの多いドブネズミについても、彼らの名誉も回復すべく、たびたびピンチに陥る主人公たちを救いだす役割を与えています。
人間という立場ではなく、それぞれの生きものの視点から世界をながめると、おどろくほどたくさんの新しい発見がありました。
虫が苦手なかたも、ぜひ先入観を持たずに、読んでみてください。
虫っておもしろいですよ!
(ごうど・まち)●既訳書にE・ロッダ「ロンド国物語」シリーズ、M・マーケッタ『アリブランディをさがして』など。
フレーベル館
「スイッチ!(SWITCH)」シリーズ(既刊6巻)
アリ・スパークス・作
神戸万知・訳 舵真秀斗・絵
本体各800円