日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『食べて始まる 食卓のホネ探検』 盛口 満

(月刊「こどもの本」2014年7月号より)
盛口満さん

自然はいつもそこにある

 小学校の時、お古になったこども向け雑誌を一揃い貰い受けた。その中のある一冊が、西表島特集号。グラビアに写された生き物の数々は、僕の度肝を抜き、以来、西表はアコガレの土地となった。

 最初に西表を訪れることができたのは大学一年の春休み。以来、何度、西表を訪れたか定かではない。最近はなかなか西表に行く時間がないのだけれど、行くと必ず寄る場所がある。それが、波でくずされた貝塚の跡だ。波うちぎわに散らばる貝や陶器に混じって、いろいろな魚や動物たちの骨が落ちている。正体は何? そして、なにより、こんな「もの」をとって食べていたという昔の人のくらしに思いを馳せて、ちょっと、ドキドキする。なにせ、散らばる骨には大きなサメの骨や、ジュゴンの骨まで混じっているのだから。 かつて西表にアコガレ、長期休みとなると沖縄行きの飛行機に飛び乗っていた僕は今、沖縄に住んでいる。ただし沖縄といっても、僕の家のある那覇は大都会だ。僕が普段大学で教えている沖縄出身の大学生も、自然オンチ度でいえば、東京や大阪の子たちと変わらない。なにせ、キャベツとレタスの違いが判らない学生がいたり、カツオブシが木の皮だと思っている学生がいたりするのだから。

 僕たちは今、どこにいるのだろう。そして何ができるのだろう。そんなことを確かめたくて食卓の探検に出てみることにした。僕たちは今もなお、生き物だ。だから毎日、ほかの生き物たちを食べて生きている。そのことを、食べ物の中の骨から探れないだろうかと。アジのひらきに沖縄おでんのトンソクの煮つけ。食べて、洗って、干して、絵に描いて、その骨の持ち主のくらしや、進化の歴史に思いを馳せる。そんな経過の中で、いつのまにか僕の机のまわりには、小さな骨の集積場が。これは、プチ貝塚ではないか……。

 自然はいつもそこにある。ただ、それと気づかないだけ。ときどき、その言葉を思い返すようにしている。さて、次はどんな食卓の探検にでかけようか。

(もりぐち・みつる)●既刊に『見てびっくり 野菜の植物学』『食べられたがる果物のヒミツ』など。

「食べて始まる 食卓のホネ探検」
少年写真新聞社
『食べて始まる 食卓のホネ探検』
盛口 満・文・絵
本体1,800円