
美味しい青春小説をどうぞ
時が過ぎても絶対に変わらないもの。それは、思い出です。
たとえば高校時代。なにかに打ち込んだときの周囲の光景は、しっかりと胸に刻み込まれる―と僕は信じます。
友達の真剣な表情。泣きだしそうな顔。優しかった先輩。先生のしかめ面。
真剣さが足りないときもあったけど、頑張りを重ねてきたことで今の自分が居ると思えます。そんな思い出を喚起するような青春小説を書きました。
舞台は県立高校の食物調理科(ショクチョウ)。卒業すると調理師免許が取れる。高校からプロの調理人を育てるというユニークな専門課程です。生徒たちは早朝から集団調理に勤しむ。ちょっと変わった高校生です。
取材は熱い時間でした。生徒たちの目は真剣味に溢れている。だけど修業中の身で拙いところもあるから、先生に叱られることも。厳しい言葉が飛んでくるのです。「今の教員はあまり怒らない」と聞いていましたから、僕はびっくりし、そして嬉しくなりました。毅然として的確、そして迫力満点の痛罵です。生徒たちを真剣に慮っているから怒る。できると信じているから、「どうして何度も同じことを言わせるの!」と声を張り上げる。教育かくあるべし! 子どもの問題ばかりが取り沙汰される昨今ですが、親や教師に迫力が足りないのではとも思ったりして。
話が逸れましたが、ショクチョウの諸君はすばらしい青春を送っているなぁと感じ入ったわけです。
とはいえ、親や教師に反発するのも高校生ですから、怒られると口を尖らせて不満そうな顔もするわけです。「きっと、卒業してから先生に感謝するんだろうな」と思っていたら、すでに感謝している。調理実習がうまくいかなかった女生徒が、「先生に申し訳なくて……」と悔し泣きをしていて、僕ももらい泣きしてしまいました。
そんな高校生たちの一所懸命さを、本書を通じて感じていただけたら、これに勝る喜びがありません。もちろん、美味しそうなシーンも満載です。美味しい青春小説を、ぜひどうぞ。
(すどう・やすたか)●既刊に『セキタン! ぶちかましてオンリー・ユー』『どまんなか1〜3』など。
講談社
『3年7組食物調理科』
須藤靖貴・著
本体1,300円