日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『うんこはごちそう』 伊沢正名

(月刊「こどもの本」2014年4月号より)
伊沢正名さん

ノグソは命の返し方

 食べることで多くの命を奪い、ごちそうをウンコに変えて私たちは生きている。そのウンコをトイレに流せば処理に多くの電気や石油を費やし、ウンコを燃やした灰はコンクリートに固められる。そんな命を消費するだけの生活をなんとかしたいと思うのだが……。

 自然の中ではキノコやカビやバクテリアなどの菌が、落ち葉や枯れ木、死骸やウンコなどの死んだ有機物を腐らせて土に還している。これこそ生き物の死を新たな生に繋げる生態系の循環の要点だ。では、人間も野生動物と同じようにノグソをしたらどうなるだろう。私は林の中に埋めたノグソを実際に一五〇ほど掘り返し、自然の中でのウンコの分解過程を調べてみた。

 人糞は獣や虫に食べられ、菌が分解した後の無機養分は樹木が根を伸ばして吸収したり、植物が芽生えたりして新しい命に変わっていった。そして秋には、ノグソ跡にキノコが沢山生えた。自分のウンコは自分自身には不要なカスかもしれないが、他の生き物にとってはごちそうであり、命の素であることを、この目でしっかり確かめた。

 命の返し方を知った私は田舎暮らしをいいことに、実は四〇年前から積極的にノグソを始めて、すでにその数は一二六〇〇回を超えている。それほどまでにノグソにこだわるのは、自分の生きる責任に向き合い、さらに自然と共生する悦びまで感じるからだ。

 夢や希望、発展などという美しい言葉で自然から多くのものを奪い、私たちの暮らしは豊かになった。その反面環境破壊や資源・食糧枯渇などの危機を招きながら、ウンコを灰にしている。私は五週間連続で日々のウンコを量ったところ、一日平均二四一グラム。ということは日本全体では毎日約三万トン、一年では一千万トンものウンコが生まれているはずだ。この大量のウンコを命の素として活かせば、多くの問題解決に波及するに違いない。しかし偏見とタブーに縛られた世間の大人どもは、まともにウンコに向き合おうとはしない。それならば、まだ純粋なこどもたちに命の循環の本質を伝え、次世代に希望を繋げたいと願っている。

(いざわ・まさな)●既刊に『くう・ねる・のぐそ』『きのこ博士入門』『カビ図鑑』など。

「うんこはごちそう」
農文協
『うんこはごちそう』
伊沢正名・写真と文
山口マオ・絵
本体1,600円