日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『へんしんねこ』 星野イクミ

(月刊「こどもの本」2014年3月号より)
星野イクミさん

くろちゃん、大好き!

 私は、猫が苦手です。周りには猫派が多くいるので、共感し合えなくて残念です。

 猫を飼ったことがないのと、学生のころ、親戚の家の猫に噛まれたのが原因です。お腹を見せていたので、なでなでしていたらガブッ! 左腕は紫色に腫れ上がり、病院に駆け込みました。その記憶がよみがえり、猫に近づくことができないのです。

 でも近所には、よく見かける野良猫が何匹かいます。やつらの表情や行動には惹かれるところがあり、距離を保ちながら観察しています。それに人間を頼らず生きているたくましさは尊敬に値します。

 ある時、テレビの中の猫が、寝転んでビヨーーーンと伸びたんです。それが想像していたよりずっと、長過ぎる伸び方だったんです。その映像がずっと残っていて、『へんしんねこ』のアイデアと結びつきました。猫が長いからだを使って、いろんなものにへんしんするアイデアを、編集の方がおもしろがってくださり、絵本としてつめていく中で、ここには登場しなかったへんしんアイデアがいくつもありました。マフラーや平均台、クレーン車とか…。このころは長いもののことばかり考えていました。

 編集の方は猫を飼っていたので、愛情を持ってアイデアを出してくれましたが、私は猫に思い入れがない分、自由に猫のからだで遊ばせてもらいました。はじめはおもしろいアイデアだけのお話だったのですが、ストーリー性を求められ、そこから深く悩み、時間をかけていくうちに、猫の心の動きや、受け入れる家族の愛情の深さなど、あたたかなストーリーが生まれました。そこから私自身も、ぐっとこの絵本が好きになりました。そして猫に名前をつけようという話になり、「くろちゃん」と命名したとたん、この猫がとても愛おしくなったんです。左腕に猫の歯形がある限り、猫を好きになれるか分かりませんが、くろちゃんのことは大大大好きです!

(ほしの・いくみ)●既刊の絵本に『ながぐつをかいに』、挿絵に『キウイフルーツの絵本』。

「へんしんねこ」
鈴木出版
『へんしんねこ』
星野イクミ・作・絵
本体1,200円