
『日・中・韓 平和絵本』
第1期3冊(全12冊予定)
浜田桂子/作(日本)、姚紅/作(中国)、イ・オクベ/作(韓国)
2011年4月
「平和のための絵本を、中国、韓国、日本の絵本作家が連帯し、作れないだろうか」。日本の絵本作家(田島征三、田畑精一、浜田桂子、和歌山静子)が中国、韓国の絵本作家にそう呼びかけたのは、それぞれ二〇〇五年と二〇〇六年。その決意と思いは、国境を越えて力強く受け止められました。
各国四人ずつ、合わせて十二人の絵本作家が一冊ずつ絵本を作り、そのすべてを日本語、中国語、韓国語で出版する。この絵本史上初の試み〈日・中・韓 平和絵本〉に関わることになったとき、正直、不安ととまどいでいっぱいでした。
子どもたちに、戦争や平和について絵本で伝えるとは、いったいどういうことなのだろう。
ひとつの答えは、日本の先生方の呼びかけ文の中にありました。「絵本は子どもの心に直接働きかけられる媒体」という言葉があったのです。
“○○年、○○で戦争があり、○○人の人がなくなった”私たちはその情報を超えて、その向こうの一人ひとりの大切ないのちにまで想像力を広げなければならない。そうしてこそ、見えてくるものがあるはず。それは人間だからこそできる営みで、絵本でできることではないだろうか。そう思いました。
今回、シリーズ第一期として刊行された『へいわって どんなこと?』は、様々な視点から、平和と守られるべきいのちについて考えます。『非武装地帯に春がくると』では、〝非武装地帯〟の詳しい知識がなくても、分断されて家族に会えないおじいさんの悲しい気持ちに、日本や中国の子どもたちも思いを寄せてくれることでしょう。『京劇がきえた日』を見れば、私たちは女の子といっしょに、すばらしい文化に触れ、どきどきします。そして、その文化がうばわれる悲しみも、いっしょに体験します。
このシリーズの画期的なところは、作品を作り上げる過程で、作家同士が意見をぶつけあうということです。そのためには乗り越えなければならないこともたくさんあります。言葉や文化の違い、そして何より、日本と中国、韓国との間にある重たい歴史。長く複雑なやりとりが続き、もう先に進めないのではないかと思ったこともあります。でも先生方は、どんなことがあってもお互いを信頼し続けました。
このシリーズを担当する中で、初めての息子にめぐまれました。いのちについて考えているときに新しいいのちに出会ったことを、運命のように感じました。そして、「人を信頼して生きていってほしい」と心から思いました。それが人間にとってどんなに力になるか、教えてくださったのは十二人の絵本作家の先生方です。
シリーズはまだまだつづきます。各国の子どもたちが同じ絵本を読み、語り合ってくれたら嬉しいです。大人にも向き合っていただきたいシリーズです。