日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本43
講談社 松岡智美

(月刊「こどもの本」2013年3月号より)
わからん薬学事始1

『わからん薬学事始1』
まはら三桃/著
2013年2月刊行

 女子直系一族の『久寿理島製薬』に400年ぶりに産まれた男子・草多は、15歳の春、島の運命を背負って、万能薬の製法を求めて旅に出る……。

『鉄のしぶきがはねる』で、坪田譲治文学賞を受賞したまはら三桃さんの最新作『わからん薬学事始』は、現代版〔本草学〕青春小説です。

 実はこの本をほぼ完成させていた担当編集者の長岡が先日部署を異動になってしまいましたので、代理で私が書かせていただいております。以下はすべて前担当・長岡からの情報です。


〝これまで、前作の3部作『たまごを持つように』『鉄のしぶきがはねる』『鷹のように帆をあげて』では、弓道・旋盤・鷹匠という、一般にはあまり知られていないような世界に打ち込む中高生を書くために、まはらさんは、それぞれ、入念に取材をして、リアリティのある物語を執筆されました。

「つぎはどんなものをお書きになりますか?」とたずねたときに、まはらさんは「ファンタジーを書きたい」とお答えになりました。とはいえ、まはらさんのお書きになるファンタジーは、まるごと異世界ファンタジーというよりは、現実のこの世界をベースにしたファンタジーで、やはり丹念な取材がベースとなります。

 まず、まはらさんのリクエストでお送りしたのが、『生薬単─語源から覚える植物学・生薬学名単語集』という、400ページ近い、分厚い本です。このほかにも、薬草に関するいろいろな本を見たり、さらには、知り合いの方を通じて、大学の薬草園や研究室などを見学させてもらったりしながら、構想を立てていらしたと記憶しています。

 トリロジーという計画があったので、これまでのような単行本ではなく、3巻にわたって、物語を盛り立てていくということも考えなければなりませんでした。そこで、2012年9月には、滋賀・京都へ出張し、薬草や忍者について取材しました。忍者が保存食にしていたという丸薬づくりも、体験しました。そのときの実感のようなものが、物語にそそぎこまれていると思います。〟

……とのことです。


 東京の私立和漢学園を舞台に主人公の草多と個性あふれる学友たちが薬学の基礎を学び、新薬の開発を目指す様子が魅力的に描かれています。これまでの3作よりもエンターテイメント性の高い作品となっていますが、何かを学び、習得する喜びが追体験できる、やはりとても、まはらさんらしい物語です。4月に2巻、6月に3巻が出来る予定です。