日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『カンナ道のむこうへ』 くぼ ひでき

(月刊「こどもの本」2013年1月号より)
くぼ ひできさん

タイトルについて

「これ、どこで区切るんですか?」とタイトルについてよく聞かれます。

「カンナ、道のむこうへ」なのか。

「カンナ道の、むこうへ」なのか。

 たいてい、ダブルミーニングですよと答えています。

 主人公、六年生のカンナがとつぜん「将来の夢」というものに悩まされます。何か具体的になりたいものができたからどうしよう、というのではなく、何にもないから困ってしまう。

 担任から「将来の夢」について聞かせてもらうと言われれば、程度の差はあれ、すこしは悩むものです。

 しかもこの主人公の周囲は、夢に邁進してる人、夢をかなえた人ばかり。みんなそのことにあまり悩んでいない。こうなると同調圧力とでもいうか、悩みが心の奥底にいつまでもわだかまってしまいます。

 かくして、彼女はいろんな人の意見を聞いて、ほんとうにそうなのかなと悩んでひと夏をすごします。そのことを描きました。

 大きな物語はありません。お菓子を作って、親友とお話をして、そのあいまに夢に悩む……。

「カンナ道」というものが作中に出てきます。広島の旧広島陸軍被服支廠、レンガ造りの建物に沿って三百メートルばかり続くカンナの花咲く道のことです(今は面影がありません)。

 あなたの名前はここからきたのだと母に聞いて、主人公はこの道を特別に思っています。不思議な出来事にもであいます。まっすぐまっすぐ続く道のむこうは、夏になるとまぶしくて見通せないほどです。まるで未来のように。

 だからタイトルはどちらの意味にもとれます。「カンナ道」の未来へ行く話でも、カンナが道の未来へ行こうとする話でもいい。

 小学生の話ながら、高校生も読んでおもしろいと言ってくれました。将来の夢は大人になっても不可欠ですから、何かしら感じてくれたのでしょう。

 大切なのは、道のむこうへ行こうと思う心。そのことを書いた話です。

(くぼ・ひでき)●第10回長編児童文学新人賞受賞作。

「カンナ道のむこうへ」
小峰書店
『カンナ道のむこうへ』
くぼひでき・作
志村貴子・絵
本体1,400円