
わかち合う幸せ
池と森のあいだの丘の上に立つ空色の家に、猫のマウと犬のバウは一緒に住んでいます。気まぐれなロマンチストのマウのために、まじめなリアリストのバウはクリスマスプレゼントを用意しました。ベニヤ板をつなぎ合わせてつくった、それはそれは大きな雪玉アドベントカレンダーでした。
マウは完成を待ちきれなくて、さっそく一日目の窓をこじ開けてしまいます。ところが、しっかりと固定されていなかった雪玉は丘を転がりはじめ、ふもとの村に住むニワトリのフォン・ゴットの納屋を潰し、ウシのムーッコネンのベランダを壊し、アヒルのクヴァークの温室やブタのポッス婦人の煙突を倒して、湖に沈んでしまいました。
十二月に入るとフィンランドの大地は凍てつき、暗くて寒い夜が続きます。そんな冬の闇を照らす光の象徴がクリスマスです。ツリーを飾り、ご馳走を作り、プレゼントを用意していると、明かりがしだいに大きく膨らんでゆくように心があたたかくなります。それはなぜでしょう。きっと自分ではない誰かのことを思いながら聖夜を迎えるからだと思います。
マウは、湖に沈んでしまったプレゼントをあきらめきれず、バウや村の皆のやさしさを欺いてしまいます。幸せは、プレゼントを手に入れることだとばかり思っていたからです。でも、クリスマスイブの日、マウはプレゼントを手ばなしました。そして、バウと星空を見あげたとき、マウの心にも星が瞬きました。マウは世界でいちばん幸せだと思い、皆のためにメリークリスマスとささやきました。
幸せは、こんなふうに皆とわかち合うことで育まれる価値観のように思います。それは物のようにたしかな形はないけれど、記憶にずっと残ってゆく。大切なことはなんなのか、それはどんなふうにあるのか、マウとバウがあたたかく深く伝えてくれる一冊です。
(すえのぶ・ひろこ)●既訳書にT・パルヴェラ『月までサイクリング』、H・フオヴィ「大きなクマのタハマパー」シリーズなど。
文研出版
『マウとバウのクリスマス』
ティモ・パルヴェラ・作
末延弘子・訳
矢島眞澄・絵
本体1,400円