
子どもの力
子どもの頃、Bちゃんという女の子がきらいでした。すぐに人の悪口を言うし、「無視しよ!」と仲間はずれをつくるからです。クラスの女の子たちもみんな、そんなBちゃんにびくびくしていました。
ところがある日、誰かがぼそりとBちゃんへの不満を口にしたことをきっかけに、今度はBちゃんがクラス全員から無視されたのです。
かわいそうだなんてちっとも思いませんでした。自業自得です。ひとりぽつんといるのを見ると、胸がすく思いでした。
そうして一ヶ月ほどが過ぎた日曜日。スーパーでBちゃんとおなかの大きなお母さんを見かけました。Bちゃんは荷物をいっぱい持っています。お母さんが持とうとしても、にこにこ笑って離そうとしません。
学校でのBちゃんとはまるで違います。とても優しい顔をしていました。
そのとき、どうしようもなく、いたたまれなくなりました。
翌日、「おはよ」と声をかけました。Bちゃんはにこりともせず、「おはよう」と言いました。それから徐々にBちゃんを無視する空気はうすらいでいきました。気づいたらBちゃんはまた、誰かの悪口を言っているし、意地悪も復活していました。
かわんない……。Bちゃんが無視されていたほうが平和だったなぁと思いながら、でも、お母さんにやさしいあのBちゃんも、Bちゃんなのです。
私の子ども時代と同じように、『糸子の体重計』には、かっこいいヒーローやヒロインは登場しません。出てくるのは欠点や傷を抱えて生きているごく普通の小学生です。ときには相手を傷つけたり、傷ついたりもします。だけど、そこから前へ歩き出そうという力。自分を変えていこうという力をもっている子どもたちです。
人はいろいろな面をもっています。それが人間の難しくて、おもしろいところです。そんなことを、糸子たちを書きながら、彼女たちに改めて気づかせてもらったような気がしています。
いとう みく●既刊に『おねえちゃんって、もうたいへん!』。
童心社
『糸子の体重計』
いとうみく・作
佐藤真紀子・絵
本体1,400円