日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『狙われた国と地域④パレスチナ』 稲葉茂勝

(月刊「こどもの本」2025年6月号より)
稲葉茂勝さん

僕は、信じている

「狙われた国と地域」シリーズの①ウクライナが発売され、③韓国を間もなく脱稿しようとしていた、2023年10月7日、パレスチナのイスラム勢力ハマスが、イスラエルを狙って突如攻撃。イスラエルはハマスに猛反撃し、すぐに立場が逆転した。ハマスのいるガザ地区が、イスラエルの攻撃の的となった。だがハマスだけが狙われたのではない。民間人の住宅、病院、学校も狙われた。狙う・狙われるは国際関係にあって、一瞬にして変わる。僕は、急遽④パレスチナの執筆を計画した。ハマスとイスラエル、どっちがどうではなく、戦争が何をもたらすのか、市民の生活が、子どもたちの暮らしがどうなるのか、同じ時代を共有する日本の子どもたちにも、絶対に戦争を起こしてはダメだと、より強く意識してもらう本をつくりたい。パレスチナの歴史や現状を通して。それは、②台湾が発売になった日のことだった。

 パレスチナは、何を書いても必ず反論され、批判され、場合によっては非難されると、何人もの人に忠告された。

 だからか? 今日本の子どもたち向けのパレスチナの本は、そう多くない。「今を、すぐに本にする」となると、僕にしかできないかも知れない。執筆する意味は大きい。自らを鼓舞して数か月、寸暇を惜しんで作業に当たった。

 案の定、いろいろなご意見が出された。とくに「狙われた国」「狙う国」とラベリング(レッテル貼り)するのはおかしいとか、子どもたちに「狙う国」が「悪い国」だという思いを抱かせるのはおかしいなどと、SNSに書き込まれたのには、唖然とした。

 どっちが悪い国だと思わせる?

 子どもたちは、そんな愚かではない。読む力も感性もすばらしいものを持っている。僕は、読者をそう信じている。

 僕の作ってきた本の数は、編集者として1500冊以上、自著も100冊を超える。児童書でも、読者の力を信じて内容のレベルを下げることなく情報を精選する。だから僕の本はよく「対象年齢不詳」などと言われる。

 目下、⑤イスラエルを執筆中。

(いなば・しげかつ)●既刊に『「目からウロコ」単位の発明!』(全5巻)、『専門家たちが語る 防災意識を高める本』(全3巻)など。

『狙われた国と地域④パレスチナ』

あすなろ書房
『狙われた国と地域④パレスチナ』
稲葉茂勝・著/松竹伸幸 監修
定価3,520円(税込)