
子どもが音楽を楽しむきっかけに
ロシアの作曲家プロコフィエフが子どもたちのために書いた、オーケストラが演奏する物語仕立ての「ピーターとオオカミ」は、長いあいだ世界中で愛されてきました。
わたしは、まだ五歳ぐらいのときに幼なじみの家で、初めて「ピーターとオオカミ」のレコードを聴きました。わくわくしながら音楽と物語を楽しんだのを今も覚えています。冒険物語の語り、キャラクターごとに分かれている楽器編成など、幼い子どもにもわかりやすく、自然に引き込まれたのでしょう。そう、まさに、音のでるしかけ絵本にぴったりの音楽作品です!
本書は、クラシック音楽の「音のでるしかけえほん」シリーズの六巻目です。このシリーズは、英語の原書だけではなく、いくつもの言語に訳されて多くの国で大人気です。
シリーズの本を手にとると、まず、その美しさに目を見張られるでしょう。細部までていねいに描かれた温かみのある絵は、物語をわかりやすく表現しています。本書の絵からも、ピーターや動物たちの心の動きがみごとに伝わってきます。
つぎに、各場面にあるボタンを押し、オーケストラによるすばらしい音楽が流れるのに驚かれることでしょう。十の場面で十のメロディーが、それぞれ約十秒ずつ流れます。
昔話には、往々にして現代の子どもには不向きな部分があります。「ピーターとオオカミ」の原作も、今の感覚では残酷すぎる要素があり、コンサートや録音時にはさまざまな工夫がされています。本書も、原作をだいじにしつつ、現代の感覚で男の子も女の子も楽しめるストーリーになっています。
さらに巻末には、少し年長の読者向けになりますが、作曲家と音楽についての詳しい説明があります。
プロコフィエフの「ピーターとオオカミ」はナレーターの語りも含めて二十分以上の作品です。この絵本を楽しんだ子どもたちが、それを聴く機会に恵まれるよう願っています。きっと心躍る音楽体験になることでしょう。
(なかいがわ・れいこ)●既訳書に『サン゠サーンスの動物の謝肉祭』『リーゼ・マイトナー 核分裂を発見した女性科学者』など。
大日本絵画
『プロコフィエフの ピーターとオオカミ』
ヘレン・モーティマー・ぶん/ジェシカ・コートニー・ティックル・え/中井川玲子・やく
定価3,300円(税込)7月発売予定