
小さな魚が教えてくれたこと
『にこにこモンツキカエルウオ』は沖縄の海に生息する、愛嬌たっぷりな魚の写真絵本です。
水深約2メートルの海底の岩のすき間から、じーっ。大きな目玉がこちらを見つめています。にっこり笑っているようにも見える、その顔の持ち主が今回の主人公。10センチメートルほどの小さな魚です。頭にはちょこんと立った2本の突起。おまけに顔には鼻毛のようなフサフサまで。波が行ったり来たりするたびに、鼻毛も行ったり来たり。白い体には、赤い水玉もようがちりばめられ、その姿はまるで生きるアート。にぎやかな水玉が、キャンバスの上で踊っているようです。ちょっと変わった見た目ですが、なんともユーモラスで、ダイバーからの人気者です。私は、この魚をもっと多くの人に知ってもらいたいと思い、オスのモンツキカエルウオに「モン太」という名前をつけて観察しました。
潜水時間は毎日約4時間。幸い、水深が浅いため、潜水病の心配はありません。モン太の視線の先には色鮮やかな魚、美しいサンゴ、透き通る青い海が広がっています。しかし、そこで見えてきたもの、それは大きな魚たちにもまれながらも、小さな体で懸命に命をつなぐ力強さでした。その生態と、じっくり向き合ううちに、どこか人の暮らしと重なるようにも思えてきました。モン太の世界は小さくても、とてもドラマチック。この絵本はそのような自然の神秘と生物多様性の大切さを詰め込んだ一冊です。
ところが2024年の夏、モン太の環境に大きな変化がありました。地球温暖化の影響で海水温が高くなり、モン太のまわりのサンゴが白化し、ついには死んでしまったのです。すると、そこに暮らしていた小さな生きものたちも減っていきます。本書は環境問題をメインにしていません。ですが「モン太かわいい!」「おもしろい!」そんな気持ちから、いつか海の生きものを大切に思うきっかけになると嬉しいです。モン太が生きるこの海が、これからもずっと輝いていますように。
(くろべ・ゆみ)●既刊に『海に生きる! ウミガメの花子』(奥山隼一/監修)。
フレーベル館
『にこにこモンツキカエルウオ』
黒部ゆみ・写真・文
定価1,870円(税込)