日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『なんで なんで?』 しらとあきこ

(月刊「こどもの本」2025年5月号より)
しらとあきこさん

答えてもらえるうれしさ

「こどもの頃、マンションの給水塔を指して『あの丸いのはなんで上にのっているの?』と聞いたら、父が『あれはプテラノドンの卵で、そのうち孵る』と言ったのを中学生直前まで信じていて、本気で怖がっていた」と話す友達の、恨めしそうな、でもうれしそうな笑顔を時々思い出します。

また、「海に沈んだお日様はどうなるの?」と聞いたちいさい頃の夫に、義父は「見ていろ、水平線にくっつくとき『じゅっ』て聞こえるからな」と言ったそうで、今でも海に夕日が沈むときは「じゅっ」と聞こえる気がする、と夫は言います。

こどもがある時期たくさん質問したがるのは、自分なりに世界を理解したいと思う成長の現れなのだそうです。それと同時に、自分がこどもだった頃を思い出しますと、知識を得ようとしていたのはもちろんのこと、それ以上に、そうして質問したときの相手の反応からその人とのつながりを感じたり、自分の存在を確認しようとしていたのではないかと思います。

絵本『なんで なんで?』は、あめいろうさぎのスゥの質問に、はいいろうさぎのクゥがひとつずつ答えていくおはなしです。実はその答えはあくまでクゥが「こうかも?」と想像したことなので、科学的な真実ではありません。

問いかけて、答えてくれる人がいる。そのかけがえのないうれしさを描きたいと思いました。

受け止めてくれたこと、関心を向けてくれたこと、「なんで?」に答えてもらった記憶はその人と自分〝ふたり〟の関係性の思い出として、きっと心の引き出しにひっそりとあたたかい明かりを灯しつづけてくれるはずです。

この絵本を読んでくださったこどもさんにも、大人の方の心の中にいるちいさなこどもさんにも、ふわふわのうさぎをなでたときのような安心やうれしい気持ちをお届けできたなら、なによりのさいわいです。

(しらと・あきこ)●既刊に『うさぎになった日』(村中李衣/文、世界文化社)。

『なんで なんで?』

アリス館
『なんで なんで?』
しらとあきこ・作
定価1,430円(税込)