
絶対に書かないはずだった。
ボクの代表作のひとつ「あらしのよるに」が2005年に全7巻で完結した。1994年に出版され、10年かけての全7巻だった。
初めから決まっていた訳ではなく、書きながら主人公のガブとメイたちが勝手に動き出し、それを追いかけて書きとめていくような執筆だった。
そして第7巻、作者もびっくりするほどの見事な完結になった。
第1巻で2匹が決めた合言葉「あらしのよるに」でこの物語が始まるのだが、ラストでこの合言葉がきっかけでガブの記憶が戻り、再び2匹の友情が元通りになるという作者もびっくり、見事なエンディングなのである。
あんな感動的な終わり方をしたのだから、これで完結することが一番いい。たとえ何があってもこの続きは絶対書かない。
もしつまらない続編なんて書いたら「せっかくきれいに終わったのに。」「書かないほうが良かったよ。」「かえって作品を汚してしまった。」などと非難囂々になるかも知れない。
ずっとそう思って20年の月日が流れた。その間に15周年20周年25周年がある。その都度、記念に完全版や短編集が出版された。
さて30周年になって出版するものが何も見当たらない。そこで担当者から「新刊はどうですか?」と言われた。
人間は変わるものである。
20年間、ずっと守ってきた作品のイメージを、残りの人生もただ守るだけなのか? ボクは今76歳。あと何年生きているのかは分からないが確実に今生きてる時間があるのだ。その人生の時間をただ守るだけなんてつまらない。
たとえ「書かないほうが良かった。」と言われたっていいじゃないか。
人生挑戦するからこそ楽しいのだ。
そしてこの20年の間にボクの人生に起こった様々な思いはまだひとつも書けていない。そうだ新シリーズの始まりだ。
こうして新シリーズ『あいことばは あらしのよるに』は生まれた。
(きむら・ゆういち)●既刊に「大型版あらしのよるに」シリーズ(全7巻)、「あかちゃんのあそびえほん」シリーズなど。
講談社
『新あらしのよるにシリーズ①あいことばはあらしのよるに』
きむらゆういち・作
あべ弘士・絵
定価1,760円(税込)