
え! ほんまかいな? ああ『千両みかん』や
「長谷川先生のラフが出来上がったそうです!」
昨年の秋、編集部から突然連絡がありました。
「え! ラフって、あの、まさか『千両みかん』の?」
私は腰を抜かさんばかりに驚き、聞けば編集部一同狂喜乱舞というではありませんか。いえ、大袈裟ではなく。
企画が通り、原稿をどうにか書き上げ、絵を長谷川義史さんにお願いできて、やった~! と飛び上がって、かれこれ十四年。
なので「ラフが出来た」という連絡は私にとって「やはりニホンオオカミはいた」ぐらいのインパクトでした。
希望は捨てずにいたものの、やはり絶滅かと弱気になり、ただでさえ人気のオオカミ、いや、長谷川さんは、近年ますますお忙しい様子で、もうすっかり諦めていたところに、この知らせ。
予告通り、まもなく素晴らしいラフスケッチが届き、すぐに本画、そしてこのたびの刊行とあいなりました。
いやあ、長かった。十四年の間には、大震災やコロナもあり、世の中もそれなりに変化がありました。
でも、さまざまに変わっていくものとは別に、「毎度ばかばかしいお笑い」という落語の世界が今もあるというのは、なんとはなしにほっとします。
この落語『千両みかん』の舞台は、十四年どころではなく、約四百年も前。お金の価値も全然違います。「千両」は、とてつもない大金であることに違いありません。
さて、『千両みかん』は元々ごく短い小噺だったようですが、上方、つまり大阪の落語としてこのような話となり、それが江戸、東京の落語にもなりました。
この絵本は、上方落語を元にしたので、会話部分は大阪弁にして、大阪人の長谷川さんにチェックしてもらいました。
シリーズの予感を漂わせるこの落語絵本、第二弾が出るのは……十四年後? そうならないことを祈るばかりです。
●既刊に『ハロウィンセブン』『狂言えほん かきやまぶし』『おいなりさん』など。
フレーベル館
『千両みかん』
もとしたいづみ・文/長谷川義史・絵
定価1,694円(税込)