日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『千両みかん』 もとしたいづみ

(月刊「こどもの本」2024年10月号より)
もとしたいづみさん

え! ほんまかいな? ああ『千両みかん』や

「長谷川先生のラフが出来上がったそうです!」

 昨年の秋、編集部から突然連絡がありました。

「え! ラフって、あの、まさか『千両みかん』の?」

 私は腰を抜かさんばかりに驚き、聞けば編集部一同狂喜乱舞というではありませんか。いえ、大袈裟ではなく。

 企画が通り、原稿をどうにか書き上げ、絵を長谷川義史さんにお願いできて、やった~! と飛び上がって、かれこれ十四年。

 なので「ラフが出来た」という連絡は私にとって「やはりニホンオオカミはいた」ぐらいのインパクトでした。

 希望は捨てずにいたものの、やはり絶滅かと弱気になり、ただでさえ人気のオオカミ、いや、長谷川さんは、近年ますますお忙しい様子で、もうすっかり諦めていたところに、この知らせ。

 予告通り、まもなく素晴らしいラフスケッチが届き、すぐに本画、そしてこのたびの刊行とあいなりました。

 いやあ、長かった。十四年の間には、大震災やコロナもあり、世の中もそれなりに変化がありました。

 でも、さまざまに変わっていくものとは別に、「毎度ばかばかしいお笑い」という落語の世界が今もあるというのは、なんとはなしにほっとします。

 この落語『千両みかん』の舞台は、十四年どころではなく、約四百年も前。お金の価値も全然違います。「千両」は、とてつもない大金であることに違いありません。

 さて、『千両みかん』は元々ごく短い小噺だったようですが、上方、つまり大阪の落語としてこのような話となり、それが江戸、東京の落語にもなりました。

 この絵本は、上方落語を元にしたので、会話部分は大阪弁にして、大阪人の長谷川さんにチェックしてもらいました。

 シリーズの予感を漂わせるこの落語絵本、第二弾が出るのは……十四年後? そうならないことを祈るばかりです。

●既刊に『ハロウィンセブン』『狂言えほん かきやまぶし』『おいなりさん』など。

『千両みかん』"
フレーベル館
『千両みかん』
もとしたいづみ・文/長谷川義史・絵
定価1,694円(税込)