
朝読書が好きですか?
勇気を出して白状します。「学生の頃、朝読書の時間が好きでしたか?」と訊かれたら、私は「はい」とすんなり頷けないのです。うっかり者の私は、朝読の本を持って来るのをしょっちゅう忘れ、国語や社会の資料集をただパラパラと眺めているような学生でした。家や図書館でマイペースに読書するのは好きでしたが、毎朝みんなで十分間だけ本を読むというのは、何だかムズムズしてしまっていたのです。だから、朝読書の時間にとくに思い出はありませんでした。
そんな私が朝読書と再会したのは、公共図書館の司書として勤めて二年目のことです。
学校支援の担当になり、中学校の朝読書の時間にブックトークをさせていただくことになりました。まだ二十代半ばで経験の浅かった私は、不安と緊張でいっぱいでした。
どうやったら中学生にこの十分間を楽しんでもらえるだろうか。学生の頃の私のように「朝読なんて……」と白けている子がいるかもしれない。そういう子にどうすれば振り向いてもらえるだろうか。
職場のスタッフ同士で相談しながら、「時間」をテーマにしたブックトークを作りました。本を集め、シナリオを書き、練習を重ねました。
そうして、発見したことがあります。ブックトークで同じ本を紹介しても、誰が演じるかによって自然と個性が出るということです。声、表情、ささいなアドリブ。人と本をつなげるのは、やはり「人」なのだと実感しました。
それならば、私は私らしいブックトークをしよう。そうして朝読書の教室を訪れました。
朝読書の時間を舞台にした物語『12音のブックトーク』を書いてみたい、という気持ちが芽生えたのは、その頃の経験があったからです。
朝読でぼんやり過ごしていた学生の頃の私が、将来この時間にブックトークをすると知ったら、こんな小説を書くと知ったら、きっと驚くでしょう。耳元で、おしえてあげたいな。
(こまつ・あやこ)●既刊に『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』『ハジメテヒラク』『雨にシュクラン』など。
あかね書房
『12音のブックトーク』
こまつあやこ・作/友風子・絵
定価1,430円(税込)