
ふっかふかの幸福
妖精とか妖怪とか、絵本にはしばしば正体不明の生き物があらわれますが、この絵本の親子も、ふっかふか感いっぱいの体型であることがはっきりしているだけの、謎の生き物です。
でも、ふっかふか感いっぱいのものって、かりかり感が目立つだけのものよりははるかにたくさん幸福感のオーラを放ってくるんですね。だから、このふたりのまわりには、登場してきた瞬間から、幸福感がただよっていて、こっちまで幸福な気持ちになってきます。
話は、「パパ、ほしいもの、ある?」という子どもの問いからはじまりますが、こういう問いは、欲しいものが切実にある者が発するものではありません。
ボクはもう十分に満足してるからなんにも要らないんだけどサ、でも、パパは、なにか、欲しいもの、あるんじゃない?
そういう類いの問いです。問いのしかたそのものに、すでに、幸福感がみなぎっています。問いににじむパパへの思い遣りは、日々かんじている幸福感から生まれています。
そんなうれしい問いを投げかけられたら、パパも、幸福感につつまれてこう言うしかありません。「わたしにはね、もう おまえがいる! おまえを愛している! 大事なのは 愛だ!」
まわりをながめると、なにもない荒野です。ミニマルな生活をめざしながら断捨離と格闘している者には(ワタシですが)究極の夢の空間です。
そうか、ものなんか要らないんだ、必要なのは、愛だけなんだ!
冒頭のページでこっちがそんなふうに感慨にふけっていると、子どもがだめ押ししてきます。
そうだね! 愛と ふっかふかのまくらだね。
そこからはじまる愉快な展開にはすっかり大笑いしてしまいましたが、こんなにも幸福感につつまれて笑ったのは久しぶりでした。
「ふっかふか」のありがたさがわかるすてきな絵本です。
(あおやま・みなみ)●既訳書に『さいこうにさいこうのプレゼント』『13かいにはきょうりゅうがいる』など。
光村教育図書
『だいじなのは愛と ふっかふかのまくら!』
ピーター・レイノルズ/ヘンリー・レイノルズ・作/青山 南・訳
定価1,650円(税込)