
いつもは願わないこと
そもそもの依頼は、十年近く前。
インターネットやSNSの怖さを伝える十代向けのミニドラマを作るので、その原作を書いてください、というものでした。
ネットの怖さ。
書けるかな……と一瞬、ひるみました。SNSにはまったくといっていいほど興味がなく、アカウントを持っているのは仕事用のブログのみ、プライベート用は0、はじめる予定もなかったからです。(ちなみにいまも状況はほぼ同じで、ブログの代わりのXしかやっていません)
よくいわれることですが、連続殺人鬼が出てくる小説を書くために、連続殺人を体験する作家なんていません(よね?)。歴史上の人物を描いた小説だってあるわけで、この世の中に存在することならなんでも(存在しないことだって)書けるのが小説! というわけで書かせていただいたのが、『電子仕掛けのラビリンス』でした。
いつも以上に念入りなリサーチを進めていく中で、「どうしてわざわざ自分を危険にさらすようなことを?」という事例を、たくさん目にしました。
中学生であろうとそれ未満であろうと、スマホを所有した瞬間から、インターネットの世界ではただの利用者。規制がかけられていても、すり抜ける子はすり抜けてしまいます。
自分が小・中学生のころに、こういうものを自由に使えていたら? 考えただけで、ぞっとしました。あのころの自分のぼんやり加減や無防備さを、よく覚えているからです。
読むことに没頭したい、と望んでいる子に、それができる一冊を届けたい、という気持ちだけでいつもは書いています。なので、『こんなふうに考えるようになってもらいたい』と狙って書くことはしていないのですが、この作品だけは、願ってしまいました。
スマホでつながる世界に無警戒なのは怖いことなのかもしれないって、少しでいいから思うようになってもらいたい、と。
(いしかわ・ひろちか)●既刊に『G65』『保健室には魔女が必要』『拝啓パンクスノットデッドさま』など。
理論社
『電子仕掛けのラビリンス』
石川宏千花・著
定価1,540円(税込)