日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『6days 遭難者たち』 安田夏菜

(月刊「こどもの本」2024年8月号より)
安田夏菜さん

山で迷う、人生に迷う

 数年前から山にハマり、「山ガール」ならぬ「にわか山姥やまんば」になりました。にわかですから本格的な登山はできませんが、立山連峰や涸沢からさわカールなどに出かけるうち、「山を書きたい!」と思うようになりました。

 で、当初目をつけたのが、部活モノです。インターハイには登山競技というものがあり、高校登山部のみなさんが日頃の成果を競うのです。知る限り、この題材が小説になっているのを見たことがありません。

 はりきって調べ始めて、頭を抱えました。登山競技は内容があまりに多岐にわたり、ルールも複雑です。

 歩行技術、装備所持、設営や炊事技術、天気図作成、地図読み、登山知識や救急法のペーパーテスト、計画書や記録書の完成度等々。これらを二泊三日で審査員が点数化し、合計点で競うのです。

 誰も書かないはずです。ルールや採点基準などを説明するだけで、一冊本が書けるではありませんか。ああ、さんざん調べて得た山の知識は、無駄になってしまうのか。

 焦りながら、集めた本を読み返すうち、「遭難」というワードが心に引っかかりました。いえ、実は最初から引っかかってはいたのです。

 ほんのわずかな判断ミスを、山は許してくれません。大自然の中に放り出され、生きるか死ぬかの状況で、人は何を思いどう行動するのか。

 そこに心を惹かれつつ、これは書けないと思っていました。登山競技は学校関係者や自衛隊が見守っており、遭難することはありません。けれど勝手に山に登った高校生が、道に迷ってしまったら?

 考え始めると次々に展開が浮かび、ドキドキしながらプロットを書きました。遭難するのは、三人の女子高生たち。それぞれ私生活に、事情を抱えています。山はこんな山で、装備や食料はこの程度で、きっかけは……。

 そして部活モノは、遭難モノとなったのです。彼女たちとともに、道に迷って頂けたら幸いです。

(やすだ・かな)●既刊に『むこう岸』『セカイを科学せよ!』『アナタノキモチ』など。

『6days
講談社
『6days 遭難者たち』
安田夏菜・著
定価1,650円(税込)