
山で迷う、人生に迷う
数年前から山にハマり、「山ガール」ならぬ「にわか
で、当初目をつけたのが、部活モノです。インターハイには登山競技というものがあり、高校登山部のみなさんが日頃の成果を競うのです。知る限り、この題材が小説になっているのを見たことがありません。
はりきって調べ始めて、頭を抱えました。登山競技は内容があまりに多岐にわたり、ルールも複雑です。
歩行技術、装備所持、設営や炊事技術、天気図作成、地図読み、登山知識や救急法のペーパーテスト、計画書や記録書の完成度等々。これらを二泊三日で審査員が点数化し、合計点で競うのです。
誰も書かないはずです。ルールや採点基準などを説明するだけで、一冊本が書けるではありませんか。ああ、さんざん調べて得た山の知識は、無駄になってしまうのか。
焦りながら、集めた本を読み返すうち、「遭難」というワードが心に引っかかりました。いえ、実は最初から引っかかってはいたのです。
ほんのわずかな判断ミスを、山は許してくれません。大自然の中に放り出され、生きるか死ぬかの状況で、人は何を思いどう行動するのか。
そこに心を惹かれつつ、これは書けないと思っていました。登山競技は学校関係者や自衛隊が見守っており、遭難することはありません。けれど勝手に山に登った高校生が、道に迷ってしまったら?
考え始めると次々に展開が浮かび、ドキドキしながらプロットを書きました。遭難するのは、三人の女子高生たち。それぞれ私生活に、事情を抱えています。山はこんな山で、装備や食料はこの程度で、きっかけは……。
そして部活モノは、遭難モノとなったのです。彼女たちとともに、道に迷って頂けたら幸いです。
(やすだ・かな)●既刊に『むこう岸』『セカイを科学せよ!』『アナタノキモチ』など。
講談社
『6days 遭難者たち』
安田夏菜・著
定価1,650円(税込)