日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『なすこちゃんとねずみくん』 堀米 薫

(月刊「こどもの本」2024年4月号より)
堀米 薫さん

うたって、なすこちゃん

 既刊『はくさいぼうやとねずみくん』が冬の物語とすれば、『なすこちゃんとねずみくん』は夏の物語です。

 十数年前に亡き舅さんの畑を受け継いでから、畑に通う時間が増えました。鍬で畝を立て、除草もすべて手作業というアナログ畑作です。おかげで、「土」がとても近い存在になりました。畑の中で繰り広げられる、野菜や虫、ハタネズミや雑草たちの命のやり取りを見つめていますと、食べて食べられる命のダイナミックな循環や、動物とはまた違った植物の逞しさに、勇気づけられることばかりです。同時に、野菜を育て、代々種を繋いできた農家の暮らしを、改めて見つめ直しています。

 既刊『はくさいぼうやとねずみくん』では、感激屋のはくさいぼうやが、太陽の光の眩しさや風の匂い、燃えるような夕焼けなど、自然の美しさをねずみくんに伝えます。今回の主人公のなすこちゃんは「歌姫」として、団粒構造の土の不思議や命が循環する世界を、楽しく歌います。自然の美しさと厳しさを知っていくねずみくんは、農家としての私自身の姿でもあります。絵のこがしわかおりさんも、ご自分の畑で野菜を作っているそうです。物語の世界感を、繊細かつ力強く表現していただき、とてもうれしかったです。

 2023年の夏は記録的な猛暑となり、我が家の米や枝豆、トマトなどは大打撃を受けました。一方、私たち農家の間で「照り茄子」と呼ばれるように、暑さに強い茄子は頑張ってくれました。何とか知恵をしぼり、気候変動に対応していきたいと願っているところです。

 さて、気が付けば、農業者人口は全人口の約2%。農業の現場を見たり経験したりする機会がなく、自分の食べている野菜がどうやって採れるのかを想像できない子ども(大人も!)が増えているように感じています。食ベものが命の土台であることは、どんな時代になっても不変なはず。思いを込めたなすこちゃんの歌を、たくさんの方に口ずさんでいただけますように!

(ほりごめ・かおる)●既刊に『はくさいぼうやとねずみくん』『あぐり☆サイエンスクラブ 春』『Yellow Brown動物たちのささやき』など。

『なすこちゃんとねずみくん』"
新日本出版社
『なすこちゃんとねずみくん』
堀米 薫・ぶん/こがしわかおり・え
定価1,760円(税込)