ようこそ、ぞうさん
「背中がかゆい……、うーん、とどかない! もう少し上、あとちょっと……」こんなことはよくあることです。「しかたない……」いつもそうするように、テーブルの角に背中を押し当てて、くいっ くいっ くいっ。これもいつものこと。いつもなら、そこで終わるところでした。けれど今回はふと、こんなことが頭に浮かんだのです。
「もし今、動物がやって来て、この背中をかいてくれるなら、誰がいいだろう?」しゃがみこんだまま、妄想が始まりました。
まずは、ぞうさんがやって来ました。長い鼻でちょいちょいと背中をかいてくれます。「うひょひょ、これはくすぐったそう」 キリンさんがやって来ました。「えっ、どうやってかいてくれるの?」 すると、長〜い首をぐにゃりと曲げて、ツノでぽんぽんぽん。でも、うまくはいきません。あの子もダメ、この子もうまくいかないぞ。うーん、誰がいいだろう。「そうだ、あの子だ! あの子しかいない!」ーーと、ここまでの妄想、約5分。
そうやって、この絵本は生まれました。背中がかゆいけど手がとどかないぶたくんと、手伝ってくれる動物たちのお話です。もちろん、そのまますんなりと一冊の絵本になるはずもなく、そこからは立ち止まっては、また進むの繰り返し。立ち止まる度に投げ出さなかったのは「せっかく私の所に来てくれたんだから」との思いがあったからでした。
道に迷いそうになると、編集者さんが「こっちじゃないですか?」と先頭に立ってくれました。デザイナーさんは、「ここ、ここ、ここですよ」といった感じで、しっくりとくる居場所のようなデザインをしてくださいました。
そうして出来上がった、シンプルで余白がたっぷりのこの絵本。どこかで出会ったら、ぶたくんたちと一緒にのんびりゆったり、ひと休みの時間を過ごしていただけたなら、幸せに思います。
●既刊に『とりかえっこ とりかえっこ』『おおきいの ちいさいの』『ちょきちょきブロッコリーさん』など。
大日本図書
『ぶたくんの とどかない とどかない』
ふくだじゅんこ・作
定価1,540円(税込)