日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『半藤先生の「昭和史」で学ぶ非戦と平和』(全8巻) 山本明子

(月刊「こどもの本」2024年3月号より)
山本明子さん

「戦争のない世界」を実現するために

 なぜ戦争はなくならないのか?

 21世紀に入ってなお世界で武力闘争が続く現状に、この疑問をもつ人は多いと思います。それは「人はなぜ戦争をするのか」という問いでもあります。答えはえんえん戦争を繰り返してきた過去の歴史に探るしかありません。

 今は平和を維持している日本ですが、約百年前にはじまる昭和の前半はまさに「戦争の時代」でした。アジアの小さな島国が大それた野望と慢心をもち、世界を相手に悲惨な戦いを続けてボロボロに敗けたのです。何もかも失った状態から再出発して今があることを胸に刻み、その過程を一人ひとりが知ろうと努力しなければ、同じ悲劇はいつ再現されるかもしれません。

 本シリーズは、昭和の歴史を伝えることに精魂を傾け、2021年に90歳で亡くなった作家・半藤一利さんの代表作『昭和史』シリーズ全4冊を、若い世代に向けて全8巻に編集し直したものです。①軍部や政府など指導層の動き、②私たち国民の暮らしや心の変遷、③世界史のなかで見た昭和日本、④戦後の焼け野原からの復興︱︱と多角的な視点から上下2冊ずつ、多くのエピソードとともに戦争の時代とその後を時系列で詳細に辿っています。

 もともと授業形式で語られたために、話し言葉の親しみやすさ、わかりやすさだけでなく、目の前で歴史が動いているような臨場感を味わうことができ、当時を生きた人たちへのナマな共感へと導かれる点が特徴です。また年表にある出来事を当事者の心理にまで分け入って読み解くことで、因果関係が納得されます。今回の新編集では活字を拡大し、ルビも大幅に増やすことで、一層読みやすくなりました。

 終わりの見えないウクライナやガザでの戦争は世界を巻き込んでおり、私たちにも決して他人事ではありません。争うことが人間の性分だとすれば、それを食い止めるのも人間の心と知恵です。未来を担う皆さんに、どんな戦争も起こさせない世界を築いてほしい。半藤さんの奮闘努力を思い出しながら、そんな悲願を抱かざるを得ないのです。

(やまもと・あきこ/半藤一利著『昭和史』シリーズ編集担当者)●ホンダ・アキノ名義で『二人の美術記者 井上靖と司馬遼太郎』あり。

『半藤先生の「昭和史」で学ぶ非戦と平和』(全8巻)"
平凡社
『半藤先生の「昭和史」で学ぶ非戦と平和』(全8巻)
半藤一利・著/山本明子・解説
各巻定価2,420円(税込)