
命を守る着衣泳の輪
私がはじめて着衣泳を経験したのは、二十歳くらいのころ、とあるテレビ番組でのことでした。「オリンピック選手は服を着たまま泳げるのか」という内容の企画だったのですが、服が水を吸って重たくなり体にまとわりついてしまって、うまく泳ぐことができませんでした。泳げる/泳げない以前に、そもそも浮いているだけでやっとだったのです。そのことにとてもびっくりして、これは知識として、経験として身につけておくべきだと考えるようになりました。
一度体験するだけでも、いざという時に命を守る力になります。しかし、学校などでは服を着たままプールに入る機会は少なく、「着衣泳」という言葉自体もまだまだ知られていません。私自身、「泳ぎ方を教えてほしい」と言われることはあっても、「浮き方を教えてほしい」と言われることはほとんどありませんでした。着衣泳を体験してもらえる機会をもっと増やしたい……そこで、昨年から「着衣泳を広めるプロジェクト」をはじめました。
車に乗るときには、シートベルトをしますよね。自転車に乗るときには、ヘルメットを着けます。それと同じように、水辺で遊ぶときにはライフジャケットを身に着けるのが当たり前になったら、防げる事故はたくさんあるはずです。もし水に落ちてしまった場合でも、落ち着いて背浮きをすることで助かる可能性はぐんと高くなります。
自分には関係ない、とは思わないでほしいです。誰にでも起こり得るのが、水の事故です。海も川も、水のあるところは楽しいですよね。同時に、危険ととなり合わせだということを知っておきましょう。自分は泳ぐのが得意だから大丈夫と思っていても、思わぬ事故でパニックになって、おぼれてしまうことがあります。だからこそ、気をつけながら楽しむ方法を、この本から学んでもらえたらうれしいです。自分を守るために、また大切な家族や友人を守るために、「着衣泳を広めるプロジェクト」の輪が広がっていくといいなと思っています。
(いわさき・きょうこ)
誠文堂新光社
『はじめての着衣泳教室』
岩崎恭子・著
定価3,300円(税込)