日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『おはようの声』 おおぎやなぎちか

(月刊「こどもの本」2023年9月号より)
おおぎやなぎちかさん

戦うプリンセスと幸福追求権

 秋田県秋田市に住んでいる主人公ゆっこは、かつての私自身です。小学生だった私は、近所に住む年上のお姉さんにあこがれていました。大人に近いけれど、大人ではない。難しい勉強をしていてすごいと思っていたし、彼女の家にあるものは、何もかもが珍しく、輝いて見えました。

 雪国秋田の暮らしの中で、その二人を描きたいと思いました。

 とはいえ、私の子ども時代はもう何十年も前、それをそのまま今の子達が喜んで読むとは思えません。いろいろアレンジをし、物語として組み立てました。

 時代は変化しています。でも、「人は他者との関わりの中で生きている」こと、「生きていくことは楽しい、でもせつない」こと。根底にあるものは変わっていないと感じます。

 結婚式ごっこをさせられたというのは、実際の話です。そのときは、いやとは言えず、唇を噛みしめていました。でも、『おはようの声』の中では、ゆっこが「いや」と言ってくれました。ほっとしました。

 子ども時代のない人はいません。楽しい思い出もあれば、いやな思い出もあるでしょう。楽しいことの方が多いといいですね。でも、今の時代そうじゃない子もいるようです。

 ゆっこは、あこがれていたエリちゃんの苦しみを、エリちゃんがいなくなってから知り、辛い思いをします。でもいやだった結婚式ごっこの時に思った「わたしは、戦うプリンセスになる」。そして、あこがれとはほど遠かった兄が言ってくれた言葉「誰にでも幸福追求権がある」。この二つの言葉に支えられます。

 ゆっことエリちゃんは、この後もう出会うことはないかもしれません。でも、この二つの言葉で繋がっているのです。

 私も、書きながら、改めて自分に言い聞かせました。

 この言葉が少しでも多くの子ども達に届くといいなと思います。

●既刊に『ジャンプして、雪をつかめ!』『ファミリーマップ』『ヘビくんブランコくん』など。

『おはようの声』
新日本出版社
『おはようの声』
おおぎやなぎちか・作/くまおり純・絵
定価1,650円(税込)