戦うプリンセスと幸福追求権
秋田県秋田市に住んでいる主人公ゆっこは、かつての私自身です。小学生だった私は、近所に住む年上のお姉さんにあこがれていました。大人に近いけれど、大人ではない。難しい勉強をしていてすごいと思っていたし、彼女の家にあるものは、何もかもが珍しく、輝いて見えました。
雪国秋田の暮らしの中で、その二人を描きたいと思いました。
とはいえ、私の子ども時代はもう何十年も前、それをそのまま今の子達が喜んで読むとは思えません。いろいろアレンジをし、物語として組み立てました。
時代は変化しています。でも、「人は他者との関わりの中で生きている」こと、「生きていくことは楽しい、でもせつない」こと。根底にあるものは変わっていないと感じます。
結婚式ごっこをさせられたというのは、実際の話です。そのときは、いやとは言えず、唇を噛みしめていました。でも、『おはようの声』の中では、ゆっこが「いや」と言ってくれました。ほっとしました。
子ども時代のない人はいません。楽しい思い出もあれば、いやな思い出もあるでしょう。楽しいことの方が多いといいですね。でも、今の時代そうじゃない子もいるようです。
ゆっこは、あこがれていたエリちゃんの苦しみを、エリちゃんがいなくなってから知り、辛い思いをします。でもいやだった結婚式ごっこの時に思った「わたしは、戦うプリンセスになる」。そして、あこがれとはほど遠かった兄が言ってくれた言葉「誰にでも幸福追求権がある」。この二つの言葉に支えられます。
ゆっことエリちゃんは、この後もう出会うことはないかもしれません。でも、この二つの言葉で繋がっているのです。
私も、書きながら、改めて自分に言い聞かせました。
この言葉が少しでも多くの子ども達に届くといいなと思います。
●既刊に『ジャンプして、雪をつかめ!』『ファミリーマップ』『ヘビくんブランコくん』など。
新日本出版社
『おはようの声』
おおぎやなぎちか・作/くまおり純・絵
定価1,650円(税込)