日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ホッキョクグマのプック』 あずみ虫

(月刊「こどもの本」2023年7月号より)
あずみ虫さん

プックの目を通して

 この絵本は、ホッキョクグマの子が、厳しくも雄大な自然のなかで成長していく物語です。冬の寒い日に、子グマのプックは巣穴のなかで産まれます。冬が終わるころ、母親に連れられて、プックは初めて巣穴の外へ。太陽がまぶしい外の世界は、プックが見たことのないものでいっぱいです。大きなヘラジカに話しかけたり、ライチョウを追いかけたり、プックは外の世界のあらゆるものに興味津々。また、オスのホッキョクグマに恐怖を覚えたり、吹雪のなかで母親と離れてしまい、寒さに震えながら心細い思いもします。そんなプックの冒険を、この絵本で一緒に体験してもらえたらうれしいです。

 私は一年の半分をアラスカで暮らしています。アラスカは野生動物がとても身近で、ヘラジカ、ヒグマ、トナカイ、アザラシ、ザトウクジラなど、様々な動物たちを観察してきました。ホッキョクグマの親子にも、隣国のカナダで会いました。

 まだ警戒心のない子グマは、元気いっぱいにこちらに向かって走り寄ってきたり、母グマに無邪気に甘えたり、愛らしい姿を私に見せてくれました。母グマは度々鼻を空高くあげて、周囲の匂いを嗅ぎ、オスグマなどの危険から常に子グマを守っていました。このホッキョクグマの親子に出会えたおかげで、この絵本は生まれました。

 それから、アラスカで見た壮大で怖いくらいに美しいオーロラを、プックの目を通して伝えたいと思いました。絵本のなかでプックが「うわぁ、そらが おどってる!」と言うのですが、それは私が初めてオーロラを見たときにでた言葉でした。

 現在、気候変動の影響で、ここに生息する動物の数は減りつつあります。ホッキョクグマは海に氷が張らないと、主食であるアザラシの狩りができません。しかし地球温暖化の影響で、海に氷が張る期間は年々短くなっています。この絵本がホッキョクグマに親しみを感じるきっかけになってもらえたら、そして温暖化を止めるために、私たちにできることを考えてもらえたら、幸いです。

(あずみむし)●既刊に『おねぼうさんはだあれ?』(片山令子・文)、『つるかめ つるかめ』(中脇初枝・文)、『おまつり』など。

『ホッキョクグマのプック』
童心社
『ホッキョクグマのプック』
あずみ虫・作
定価1,650円(税込)