日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『モラルくんのイソップものがたり』 トシンジャー

(月刊「こどもの本」2023年7月号より)
トシンジャーさん

令和版『イソップものがたり』~ダイバーシティの概念で~

 先日、私は某有名スポーツメーカーのショップでスニーカーを探していました。そこで、ふと気づいたのですが、サイズの表記はありますが、男女の区別はありませんでした。なるほど!そういう事か!と理解した事があります。

 この本は、22年のフランクフルトのブックフェアで、大日本絵画の海外交渉担当がみつけた、イタリアの出版社ダコ・スタジオ作、まわすと絵が変わるしかけ絵本です。内容は、有名なイソップ物語、『ウサギとカメ』『オオカミしょうねん』など、それぞれの話を通して、主人公(モラルくん)が読者に教訓を伝えるというものです。

 イソップ物語は古代ギリシャ(紀元前6世紀頃)に作られた寓話ぐうわです。お話から得られる教訓は、登場人物の失敗を元に半面教師ととらえるものが大半です。原書を読んでいるうちに冒頭のショップの事が頭によぎりました。教訓の解釈を令和の時代らしく、多様性の概念を取り入れたいと考え、イタリアの出版社に意訳の許可を取りました。

 例えば、本来の『キツネとブドウ』では、欲しいものを諦めざるを得ず、負け惜しみを言ったキツネに対して、出来なかった事を正当化してはいけないと批判しています。それはその通りではありますが、実社会において、子供も大人も、何かを諦める経験を星の数ほどする事になります。諦めた事を単に批判されるより、次につながる教訓の方がより良い教訓と考え、意訳させて頂きました。イタリアの担当者は、「とてもラブリーなジャパニーズバージョンができてうれしい!」とおっしゃっていたそうです。

 大日本絵画が扱う海外の絵本は、絵がポップで色合いが鮮やかなものが多いので、その絵と文章が拮抗きっこうするように考えながら、翻訳しています。良い日本語(必ずしも上品ぶった日本語という意味ではない)、言葉が心にすんなり入ってくる、絵と文を合わせて見て楽しい気分になる言葉を選ぶようにしています。

 この本は大人も子供も楽しめる絵本です。是非ごらんください。

●訳書に『どうぶつたちのハロウィンパーティー』(9月発売予定)。

『モラルくんのイソップものがたり』
大日本絵画
『モラルくんのイソップものがたり』
パオロ・マンチーニ・他・作/トシンジャー・訳
定価1,320円(税込)