日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『かぜがつよいひ』 昼田弥子

(月刊「こどもの本」2023年6月号より)
昼田弥子さん

知らない世界へ

 たしか小学校の低学年の頃。どういう切っ掛けだったかは思い出せないのですが、自分はこの世界のことをほとんど何も知らないのだと、ふと気づいた瞬間がありました。

 そのとたん、きゅうに怖くてたまらなくなって、近くの大人にその気持ちを訴えると、「自分が知らないということを知っているのは、いいことだね」という感じの返事が返ってきて、ひどくがっかりしました。そんなことより、私はとにかく怖いのだと。

 こんな調子で子どもの頃は、自分の知らない世界に対する恐れを、心のどこかに常に抱えてすごしていました。でも、それと同時に、知らない世界に対する憧れのような気持ちも心のどこかにあったのです。

 たとえば、ビュービューと風が強い日には、家の中で固唾をのんで外の様子を眺めながら、この風が私の知らない何かを運んでくるんじゃないかと密かに期待していたのでした。

 この絵本は、風が強い日にお母さんが買い物に出かける場面から始まります。家で留守番をすることになった姉弟は、しりとりをして遊びだすのですが、なぜか外では二人が口にしたものが、次々と風に飛ばされていきます。そして、しりとりの内容がエスカレートしていくとともに、外の様子もとんでもないことになっていくのです。

 テキストを書き上げたとき、そういえば、この二人はこんな状況の中で、よく、しりとりを続けられるな、と疑問のようなものがわきました。

 けれど絵を担当してくださったシゲリカツヒコさんの本画を見たとき、その理由がなんとなくわかった気がしました。お話のクライマックスにお母さんが再び登場するのですが、その表情の、なんと朗らかで頼もしいこと!

 もしかしたら二人は留守番で離れている間も、このお母さんの存在を意識せずとも感じていたのかもしれません。

 知らない世界は、ときに怖い。

 でも、自分を支える確かな何かがあれば、どこまでも高く自由に飛んでいけるような気がします。

(ひるた・みつこ)●既刊に『あさって町のフミオくん』『ノボルくんとフラミンゴのつえ』『エツコさん』など。

『かぜがつよいひ』
くもん出版
『かぜがつよいひ』
昼田弥子・作/シゲリカツヒコ・絵
定価1,540円(税込)